野球善哉BACK NUMBER
あえて注目したい敗戦処理の投手達。
小野淳平、高橋秀聡、鶴直人らの志。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byTamon Matsuzono
posted2012/04/09 12:40
2009年度のドラフトで、巨人に5位指名された小野淳平。最速150キロに迫る直球が評価されていたのだが、2010年は故障で二軍。2011年にはプロ初勝利をあげたが2勝止まりで……今季は勝負の年になる。
チームの必勝パターンから外れても、存在感のある投手。
オリックスの高橋秀聡は、昨オフのトレードでソフトバンクから移籍してきた29歳の右腕である。ソフトバンク時代には先発をしていたこともあったが、オリックスでの出番は中継ぎ待機だ。オリックスには平野佳寿-岸田護という必勝パターンがある。さらに、僅差リードならミンチェが務めるし、僅差ビハインドなら香月良太と役割が決まっている。
高橋が登板するケースとしては、先発が大崩れした場合と大差ゲームだ。
高橋は言う。
「僕にできることは、与えられた役割で0に抑えるしかない。たとえ、失点したとしても最少で止める。いつ出番があるか分からない調整の難しさはありますが、そんなことも言っていられない。これが自分の立場だし、年齢的にも結果を残さなければいけない。なんとなくマウンドに立つのだけはやめておこう、と。それだけは心がけています」
時に勝負を左右する重要な役割が降ってくることも……。
彼らの役割で忘れてはいけないのは、日本的にいえば“敗戦処理”、アメリカ的に言えば“モップアップマン”といえる役回りも、時には試合を接戦に持ち込む重要な役割を持っているということだ。
たとえば、4月4日の阪神対ヤクルト戦ではこんなことがあった。
阪神は先発したメッセンジャーが炎上。3回で5点を失った。序盤で先発投手が崩れると、チームとしてはプランが大きく狂うものだが、4回表、阪神の主砲・新井が一矢を報いるソロ本塁打を放つと、反撃が始まった。
こういう試合展開では、先発の後を受け継ぐ投手の役割は重要度を増す。もはや“敗戦処理”という立場ではない。この時、マウンドを引き継いだのが鶴直人だった。
4回裏にマウンドに上がった鶴は、任されたこの1イニングを三者凡退に抑える。1点を返した直後からの好投はチームに勢いをもたらす。野球とは面白いもので、一度傾いた流れが止まると、勢いは逆側に傾く。鶴はそれまでの流れをひっくり返すことに貢献したのだ。5回表、平野恵一の適時打でさらに1点を返すと、試合の流れは一気に阪神へ。鶴降板後の投手陣が踏ん張り、8回表にはブラゼルの本塁打などで同点。結果、引き分けに持ち込んだのだ。
先発投手が序盤に崩れた試合を最終的に引き分けに持ち込むというのは、長いシーズンを戦う上では勝ちに等しい。このポジションは、時にこうした重要な役割が降ってくることがある。数字に表れるような分かりやすい貢献ではないのだが、だからこそ、首脳陣に与える印象も大きいというものだ。