スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
アトレティコに戻った“チョロ”シメオネ。
愛すべき嫌われ者がもたらした改革。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/02/24 10:31
知将マンサーノの後継としてアトレティコの監督となったシメオネは、典型的な闘将タイプだ
DFゴディンは「以前はなかった戦術的な規律がある」。
ただし、これだけ守備の要求が高くなると時に攻撃に回す余力がなくなり、結果としてフィニッシュの精度が落ちることがある。スコアレスドローに終わったマラガ戦、バレンシア戦などはそのパターンだった。しかし、それでも選手達はシメオネが目指すサッカーを好意的に受け止めている。
「今も前と同じように走っているけど、恐らくより考えて走るようになったんだと思う。それに攻めも守りも全体がコンパクトにプレーするようになった。成功の鍵はそこにあるんじゃないかな」と変化の要因を分析するのは、ファルカオとの2トップで息の合ったプレーを見せるアドリアン。前監督の下で控えに甘んじながら、シメオネ就任と共に定位置を掴んだDFゴディンも「今のチームには、以前はなかった戦術的な規律がある」とこの変化を歓迎している。
「我々は毎試合より多くのアトレティの心を掴んでいる」
就任間もなくチームを再生させたシメオネは、現役時代と同様に瞬く間に周囲の心を掴んでしまった。元々人気者だったこともあるが、オフィシャルショップではシメオネが現役時代につけた背番号14のユニフォームがファルカオ、ジエゴに次ぐ3番目の売れ行きとなっている。
また現役時代に4シーズン在籍したラツィオとアウェーで対戦した先日のヨーロッパリーグでは、試合前にラツィオから記念品を授与された。その際、スタンドのラツィオーレからは「オレオレオレ! チョロ・シメオネ!」と盛大なコールが鳴り響いた。
3-1の快勝で終えたこの試合の後、シメオネは言った。
「我々のスタイルは相手に圧力をかけ、激しく戦うこと。それが観る者の心を熱くするんだ。我々は毎試合より多くのアトレティの心を掴んでいる」
現役時代のシメオネは、誰よりも嫌われ者で、誰よりも愛された選手だった。そんな彼が目指すサッカーを選手全員が体現できるようになった時、アトレティコは世界で最も忌み嫌われ、かつ愛されるチームとなることだろう。