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<私とカラダづくり> 内田樹 「カラダというアナログを大切に」 

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photograph byMami Yamada

posted2012/01/19 06:00

<私とカラダづくり> 内田樹 「カラダというアナログを大切に」<Number Web> photograph by Mami Yamada

人間の身体能力の95%は数値化できない。

 最近、ランニングをする人が増えていますよね。これも合気道と通じるものがあると思う。他人との競争ではなく、カラダの内側を見つめ、自分が持っている身体資源をどう引き出していくかという、非常に内省的なカラダへの関わり方の楽しさに、みんなようやく気がついたんじゃないでしょうか。

 僕の周りにも、まったく運動をしたことがなくて運動音痴なんだけど、急に走りたいという気持ちが湧いてきたという人がいます。そして「走っていると楽しいんです」なんて言っている。こういう学校体育では点数低かったのかなというタイプの人たちが、最近どんどん走り始めています。

 これは僕は本当にいいことだと思うんですね。日本の学校体育が、検証、査定している能力って数値化できるものばかりです。走る速さとか、跳んだり投げたりする距離とか。でも、人間の身体能力の中には数値化できないものっていっぱいあるんです。95%くらいがそうなんじゃないかな。

カラダは簡単には理解できないブラックボックス。だからこそ面白い。

 僕は小さいときに心臓疾患を患っていて今も走ることはできないんです。そもそもうまく走れませんし(笑)。でも、みんなが走りたくなる理由はわかるんですよ。

 走っていると「これくらいの距離を走ると、こんなところが痛くなるのか」とか、「もうダメかと思ったけど、ある地点を過ぎたら急に走れるようになってきた」と、それまで知らなかったメカニズムを実感することができます。そうやって自分のカラダが、簡単には理解できないブラックボックスだなっていうことがわかるのはとても面白いんですよ。

 武道をやっていると、AとBとCを同時にやりたい、とカラダに複数の入力をすることがある。時には絶対にできないだろうってことを入力するんですけど、バッと動くことがあるんです。そのときは感動しますよ。カラダはなんて複雑怪奇なシステムなんだろうか、こんなチカラが眠っていたのか、と。

 合気道における技術的な課題のひとつは、自分の最大の力はどうやって出るのか、最大の速さはどうやって出るのかということです。力の場合は、表層筋や深層筋など全身に筋肉があるわけですよね。例えば、中指一点にいかに筋肉を総動員できるかを考えます。普通は腕の筋肉を使うわけですが、それではチカラは小さい。腰の筋肉がどうやって使えるか、そのときにどんなふうに呼吸したらいいのか、腹筋をどこにつなげればいいのか、などと考える。そういった、ちょっとした工夫で出力されるパワーがグンッと大きくなるわけです。

【次ページ】 自宅兼道場「凱風館」に込めた理想。

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内田樹

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