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<私とカラダづくり> 内田樹 「カラダというアナログを大切に」
text by
NumberDo編集部Number Do
photograph byMami Yamada
posted2012/01/19 06:00
合気道は、子どもを生んだ女性でも続けることができる。
合気道はそういった意味で競技スポーツとはまったく違う。誰より強い、弱いというのが問題にならないんです。もちろん長年やっていれば、それはわかるんですよ。パッと手をとってもわかるし、座っている姿を見ただけで土下座したくなるような凄い人もいます。
でも、「いつまでにここのレベルに到達しなければならない」っていう時間的縛りがないので、その時点での強弱はまったく重要ではないんです。合気道にあるのは、自分が死ぬまでに「あのあたりを目指せばいい」というようなものだけ。ざっと60年は稽古できるな、と(笑)。そうなると、みんなずーっと稽古が続けられる人生設計をしますよ。
僕の門下生たちでも、社会人は転職や転勤、それに結婚や出産とライフステージが変わっていくので、それぞれの時期にあわせて合気道をやっています。子どもを生んだ女性も、ほとんど合気道をやめずに、少しすると子どもを連れて道場にくるようになります。
「与えられた環境でベストを尽くす」のが合気道のマインド。
ちょっと話がそれますが、合気道をやっている男子はよく出世するんですよ。
場を主宰するというのが武道では第一義なんです。自分が場の中心になるということで、そういった経験を積んでいくと、どのような状況にも臨機応変に対応をして、高いパフォーマンスを発揮できるようになる。
それは武道の初期設定に、文句を言わないということがあることも関係しています。例えば両手をつかまれたり、羽交い絞めにされるといった不利な状況でもリセットできない。「ちょっと待って」が通じないわけです。だから、こうなってしまった以上しょうがないと考えて、与えられた条件のなかで自分が何ができるかを必死になって考える。たとえそれが不利な状況でも、新たな条件が加わったので、「さぁ、ここから何ができるかな」というのが合気道のマインドです。
これって社会人としても高い能力なんですよね。職場に嫌な上司がいたり、部下が極端に少なくても、グジグジ考えずに、その状況のなかでいかにうまくやるかと、頭の切り替えが上手くできる。与えられた環境でベストを尽くすということです。