オリンピックへの道BACK NUMBER
ランキング制導入の柔道界に波乱。
過酷な状況で精彩欠く選手たち。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2011/11/21 10:30
柔道女子重量級のホープで、世界ランク1位を独走する田知本愛。一人、健闘し、講道館杯全日本体重別選手権の女子78kg超級で初優勝を果たした
「とことん追い込む」合宿のせいで体調管理も不十分に。
そして日本の場合、大会の合い間に開かれる強化合宿が、選手を苦しめる。
全日本の首脳陣は、「とことん合宿では追い込む」と常々口にする。その言葉どおり、日頃から厳しい稽古をこなしている選手でさえ思わず涙を流すことがあるくらい、厳しい練習が行なわれる。
そして合宿は参加するのが原則だから、「今回は自分なりの調整をしたいから」と欠席するわけにもいかない。だから選手は、コンディショニングに苦しめられもする。
「身体が万全じゃなくて、ほんとうはじっくり治したいけれど、そういうわけにはいかなくて」と、ある選手がつぶやいたことがある。
先に上川について触れたが、上川は故障をかかえたまま、この数カ月間試合に出続けてきた。そのすべてに出る必要があったのかどうか。合宿はどうだったのか……。
こうした過酷なスケジュールの中では、すべての大会に勝負をかけるわけにはいかない、ここは無理はしたくないと考える選手だって出てきて不思議ではない。許されるなら、今大会を欠場したいと考えていた選手がいても、わからなくはない。
ランキング上位の選手にとっては“捨て試合”だった!?
また、選考対象大会と銘打たれていても、今回のように、しゃにむに勝ちに行かないで済むのも、ランキング制の弊害とも言える。ポイントを積み重ねていかなければならない柔道では、他の競技のように、ぱっと活躍したからといって代表になることはできないからだ。
例えば今大会の女子57kg級で、世界選手権代表の松本薫を破って初優勝をした石川慈の10月時点での世界ランクは133位。五輪代表までの道のりは、現実的には困難だと言わざるを得ない。ランキングの上位にいる選手が代表争いにおいては優位でいられる。
そうした事情もまた、第一人者たちに、何が何でも優勝、という姿勢が見えなかった背景である。実際、大会では、敗れても、他の主要な大会のときのように悔しがる選手は少なかったように見えた。
いまの強化方針は、過ぎたるはなお及ばざるがごとしでは?
そうではあっても、ポイントの対象ではない国内大会も含め、数多くの大会に出場せざるを得ない。そしてひんぱんに行なわれる強化合宿に参加しなければならない。
代表選考の始まりを告げる大会で感じたのは、そうした厳しい状況のもとで戦う選手たちの過酷さだ。
そして、選手にそれを強いる、強化の方向性にも、再考の余地があるのではないか。どこか精気を欠く選手たちの表情に、そう思わずにはいられなかった。