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スポーツを語る快楽に満ちた
本誌人気連載が待望の書籍化!
~奥田英朗『どちらとも言えません』~
text by
大矢博子Hiroko Oya
photograph bySports Graphic Number
posted2011/11/20 08:00
『どちらとも言えません』 奥田英朗著 文藝春秋 1200円+税
政治も商売も全部ひっくるめてスポーツを楽しむ姿勢。
スポーツとは、社会に話題を提供し、ファンをやきもきさせ、熱く語られながらも、大勢に影響しないところが凄いんだと著者は指摘するのである。
「だってそうでしょう。地元チームが優勝を決める大一番に負けたとしても、市民の暮らしに実害はない。(中略)ヤケ酒飲んで、気炎を上げて、涙に暮れても、翌日にはみんなちゃんと学校や会社に行くし、社会は回っている」
この一文を読んだときは膝を打った。そういう意味で「たかがスポーツ」なのだ。確かに優勝を逃しても監督が替わっても球団名が変わっても、こちらが損するわけじゃない。だって娯楽だもん。そこには政治や商売も当然入ってくるよ、だってそれがプロスポーツだもん。だったら全部ひっくるめて楽しもうぜ、ホラこういう見方をすると面白いだろ!
……もやもやが晴れた瞬間である。
「スポーツにまつわるドロドロ」が嫌いなスポーツ好きは必読!
それは言わない約束でしょ、という大人の事情もずばずば書いてくれて気持ちがいい。しかもユーモラスな語り口調のせいで嫌味じゃない。それに、なんだかんだ言っても著者はアスリートたちを心から尊敬し、憧れているのがわかる。リスペクトがあるからこそ、的を射た野次やツッコミができるという好例だ。読みながら何度笑い転げたことか。
スポーツには「する」「観る」「語る」の三つの楽しみがあると著者は書いているが、本書はまさに語る楽しみが詰まっている。そしてこれを読むことで、読者は新たな視点を知り、観る楽しみが増す。すると語る楽しみも増してくる。
スポーツファン必読の書。特に、「スポーツは好きなのにそれにまつわるドロドロした政治とか商売とかが嫌だ」と思ってる人は読むべし! もやもやが晴れることは実証済みだ。