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<愛馬オルフェーヴルを語る> 池添謙一 「三冠をもたらした“人馬一体”」 

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阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byYoshiharu Hatanaka

posted2011/11/16 06:00

<愛馬オルフェーヴルを語る> 池添謙一 「三冠をもたらした“人馬一体”」<Number Web> photograph by Yoshiharu Hatanaka

偉業達成の後、わずかな安堵を相棒は見逃さなかった。

 向う正面に入ると馬は落ち着いた。よどみなく流れるレースの中でいいリズムを感じ、自分も落ち着いたという。

「スパートは早い気もしましたが、手ごたえはよかったですから。4コーナーを回るときは、だいたい大丈夫と思いました。先頭に立っても、オルフェーヴルを後ろから来て差せる馬はいないと信じていましたから」

 その感触に間違いはなく、ゴールは余裕たっぷりだった。

 三冠のゴール。圧倒的な人気に応えての偉業を成し遂げた満足感はあったが、派手なパフォーマンスはしなかった。

「デビュー戦でレースのあと、落とされたことがありましたからね。三冠を達成したあと、落馬したり、故障したりするなんてあってはならないことですから」

 ガッツポーズをも控え、慎重にクールダウンさせながら、検量に戻るつもりだった。だが、わずかな安堵を相棒は見逃さなかった。大観衆の前で三冠騎手は振り落とされてしまった。

「ねえ、これが三冠馬のシルシだよ。よかったねえ」

断然人気に応え、偉業達成。愛馬と歓喜に浸る

「気をつけていたんですが、かっこ悪かったですね」

 馬も自分も無事だった。戻ってきて、レース後の検量を終え、表彰式のために「菊花賞」と書かれた馬服を着せて、再び馬場に向かう。その様子を近くで見せてもらった。騎手を振り落としたくらいだから、三冠馬にはまだレースの余韻が残っている。血管は太く浮き出たままだ。そこに馬服が着せられる。そのとき池添は、ずっと馬に話しかけていた。

「ねえ、これが三冠馬のシルシだよ。よかったねえ」

 童顔の池添が、幼稚園に入る子どもに話しかけるような口調で馬の首をなでながら話している姿が面白かった。

「そんなことしていましたっけ。でも、きっとそうですね。ぼくはそのときだけじゃなく、馬に乗ったらいつでも話しかけるようにしているんです。下見所だけじゃなく、馬場でも、ゲートに入ってからも」

【次ページ】 厩舎育ちならではの馬とのコミュニケーション。

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池添謙一
オルフェーヴル

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