野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
摩訶不思議なドラフト戦略に、
ベイスターズの明るい未来を見た!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2011/11/07 12:20
横浜ベイスターズからのドラフト指名の報を受け、渡辺晃監督とガッチリ握手する古村徹選手。「指名がくるとは思いませんでした。ドラフトって8巡目まであるんだって感じ」と素直な感想を述べた古村
4年連続最下位で、即戦力ではなく高校生ばかりをとる?
厳しい意見は他の野球評論家からもいくつも聞こえてくる。だが、この高校生に偏った指名、そこまで悪くないと思うのは筆者だけだろうか。
ドラフト会議の後、ある球団幹部からこんな話を聞いた。
「藤岡を獲りに行ったが、クジで外して方針をやや修正することにした。今のベイスターズは何かを主張しなければなりませんから」
今年の指名、確かに主張はある。4年連続最下位というどん底の中で、即戦力ではない高校生ばかりをあえて指名するという主張。それはもう、どう勘ぐったって「横浜は未来を見ている」ということ以外には考えられない。
完成された大学生や社会人で単に足りないところを補うだけではない、「チームは未来を見て選手を育てていく」という、そのややもすると危うい、しかし強固な主張は、確かにこれまでには見られなかったものだ。そのことが「このドラフトは悪くない」と期待を感じさせる根本にあるのかもしれない。
横浜に指名されても手放しで喜んでくれた高校生たち。
そしてもうひとつ、「悪くない」と思わせてくれたものがある。「こんな状況では拒否もあるのではないか」、と不安視された中で、ドラフト指名を受けた後の彼らのコメントである。それらを声に出して読んでみてほしい。
1位 北方悠誠(唐津商) 投手
「嬉しくて言葉にならない。早く1軍のマウンドに立って、持ち味の速球で三振をたくさんとりたい」
2位 高城俊人(九州国際大付属) 捕手
「死ぬ気でやって早くスタメンで試合に出て、横浜の順位をもっと上げたいです」
3位 渡辺雄貴(関西) 内野手
「横浜は順位が下位ばかりなので早くチームの力になりたい。球団に最高の恩返しがしたい」
4位 桑原将志(福知山成美) 内野手
「高い評価をいただき、その期待に応えられるよう、ひたむきに頑張りたい」
6位 佐村トラヴィス幹久(浦添商) 投手
「うれしい。指名後は『夢ではないか』と思っていたが、本当にプロになるんだと実感した」
7位 松井飛雄馬(三菱重工広島) 内野手
「小さい頃からの夢だったのでうれしい」
9位 伊藤拓郎(帝京) 投手
「指名していただいて感謝しています。入った以上は命を懸けるつもりでやりたい」
これらは優良企業に就職が決まった専門学生たちの喜びのコメントではない。プロ野球界のなんちゃら企業の名をほしいままにする、どん底のベイスターズに指名された選手たちの言葉なのである。
明日何が発表されてもおかしくない状況にもかかわらず、指名されて満面の笑顔を浮かべる彼らの姿には、ただただ有難く救われる思いである。もはや、前評判や実績なんてものはどうでもよい。それが“来てくれる選手を獲る”ということだ、という批判もあるやもしれない。だが、今はそのことが単純に重要に思えてならないのだ。