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藪恵壹の感動的なメジャー復帰 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2008/10/20 00:00

藪恵壹の感動的なメジャー復帰<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 引き続きレイズの取材を続けていたら、知らず知らずに10月も半ばになっていた。プレーオフに入っても、公式戦と変わらない戦いを繰り広げるレイズは本当に強い!の一言に尽きる。彼らのシーズンが終了した時点で、改めてレイズの今シーズンを検証してみたいと思っている。

 さて、レイズから離れることなくプレーオフに突入してしまったため、岩村選手以外の今シーズン取材に回っていた他の日本人選手やそのスタッフの人たちに、御礼の挨拶もできないまま公式戦が終了してしまった。とりあえず数人の選手に関しては、失礼とは思いながら電話で話をすることができたのだが、多くの選手に対してはそれすらも叶わなかった。選手の皆さんがこのコラムに目を通してもらっているとはとても思えないが、この場でしか謝意を伝える術がなさそうだ。ということで……。

 今シーズンはいろいろとお世話になりありがとうございました。また来シーズンもキャンプ取材からよろしくお願いします。

 自分にとって現場で取材できる至上の喜びというのは、選手たちの言動や思考法に直接触れることで、自分自身も触発され人間として成長できていると感じているからだ。大袈裟に聞こえるかもしれないが、一般の人たちが選手たちのパフォーマンスや人間ドラマに感動するように、それを伝える役目として現場にいる自分たちも、彼らからいろいろなものを吸収しているのだ。

 今シーズンも選手たちと様々な体験をさせてもらう中、自分が最も触発、発憤させられたのが、ジャイアンツの藪恵壹投手だった。今シーズンは日本人選手の中で最も“日陰”の存在だったと思うが、彼のメジャー復帰は、まさに感動ストーリーそのものだった。

 奇しくも今年のキャンプでは、藪投手以外にも桑田真澄投手、野茂英雄投手、高津臣吾投手─と今年40歳になる同年代選手たち(桑田投手だけは学年が1つ上)がメジャー復帰を目指していた。結局はメジャー選手としてシーズンを終えたのは藪投手のみ。2人は現役生活に終止符を打ち、もう1人は韓国プロ野球に活躍の場を移した。もちろん藪投手が日本人メジャー選手史上、最高齢選手になったのはいうまでもない。

 メジャーでもごく少数の40歳以上選手の1人になっただけでも頭が下がる思いなのに、それ以上に驚嘆させられるのがメジャー復帰を果たすまでの課程だ。 2006年のキャンプ中にロッキーズを解雇されてからは、その年の夏にほんのわずかだけメキシカン・リーグに所属していただけ。昨年12月にジャイアンツとマイナー契約を結ぶまで、1年以上の間実戦から遠ざかりながらもずっと孤独なトレーニングを続けてきた。年齢を考えれば先の見えない状況に、普通なら将来に不安を感じながら気持ちが萎えてしまうだろう。だが藪投手に一切の迷いはなかったという。

 「僕の場合は(野茂投手のように)ケガ(で投げられなかったわけ)ではなかったですからね。しっかり(自分の投げる)ボールさえ見てもらえて、(投げられる)場所さえあればという気持ちでやってました。引退なんていつでもできるわけですし、(プレーできる場所があるなら)50や60になってもやればいいじゃないですか。僕はそう思います」

 藪投手は笑顔で話してくれたが、自分の投球に対する揺るぎない自信がなければ絶対に口にできない言葉だろう。3年ぶりに開幕メジャー入りを果たし、結果がすべての世界で最後まで生き残り続けたことで、改めて藪投手の信念が正しかったことを証明してくれた。

 シーズン中に何度か取材に回った時、いつでも楽しそうにしている藪投手の笑顔が印象的だった。野球選手としてメジャーという最高の舞台を満喫している姿がそこにあった。一方でその状況に甘んじることなく、自分の投球に対する飽くなき探求心を忘れることはなかった。8月下旬に取材した時のことだ。

 「ちょっとイメージと違ったボールだった。その辺を修正しないといけない。毎日ビデオを観ているし、コーチもいい指摘というかアドバイスをくれますから」

 この発言のように、投げ終わった後の藪投手は投球を振り返りながら常に反省の言葉を繰り返した。そんな藪投手の姿勢は確実に首脳陣に評価され、シーズン前半では負けパターンでの登板が多かったが、後半では同点や勝ちパターンの登板が次第に増えていった。

 先日某スポーツ紙のサイトで藪投手の帰国を報じていたが、また11月にはアメリカに戻ってトレーニングを再開するという。藪投手の保有権を有するジャイアンツの公式サイトをチェックする限り、藪投手が来シーズンの構想から外れているという記事はまったく見当たらないし、今もロースターにしっかりと名前を連ねている。

 2年間の空白期間を経て、再びメジャーから“必要とされる”選手となった藪投手。いつまでもメジャーのマウンドに立ち続けてほしいと願って止まない。

 最後に、先日自分のブログにコメントを頂戴し、前回のコラム内にあるア・リーグのサイヤング賞予想で、「クリフ・リー投手」が「カルロス・リー投手」になっていたとのご指摘を受けた。改めてお詫びして訂正させて頂きます。

藪恵壹
タンパベイ・レイズ

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