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これでいいのか辻本賢人!!
阪神をクビになった20歳は草食系。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2009/12/02 12:25

これでいいのか辻本賢人!! 阪神をクビになった20歳は草食系。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

「5年後にはものすごいピッチャーになっている」はずが……。

 ところが、現実は甘くはなかった。1年目こそ二軍でプロデビューを飾ったが、その後は度重なる故障に悩まされ、5年目の今年にはとうとう育成枠に降格。背番号も61から121へと変更された。再起を誓うはずだったが、シーズン前に腰椎の疲労骨折が発覚し、1度も実戦のマウンドに上がることなくシーズンを終えた。

 入団直後、辻本のコンディショニングを担当していたこともある立花龍司が、ある雑誌で言っていたことを思い出した。

「5年後にはものすごいピッチャーになっていると思いますよ」

 5年後とは今年。辻本はものすごい投手どころか、プロ野球選手という肩書きを失った。一軍での登板はゼロ。二軍で25試合、0勝1敗、防御率5.33。これが今のところプロでの全成績である。

 恐らく、阪神以外の球団に入っていても似たような結果になっていただろう。理由はいくつも考えられる。年齢相応のトレーニングができなかったことや、アマチュアでの経験と実績から生まれる自信、などなど。それでも本人は、「5年間、お世話をしてくれた阪神には感謝しています」と言った。それはそうだろう。彼の野球人生で最も長く在籍した場所なのだから。前向きに捉えれば、阪神は初めて高校生以下の選手の面倒を見たことで何かしらの教訓を得ることができただろうし、辻本自身、日本一ファンから支持されている球団にいたことでスポットライトを浴びることができた。互いにとってプラスの5年間だと思いたい。

辻本の世代は今まさに“ゴールデンエイジ”となったのに。

 皮肉なことに、現在、辻本と同い年の選手が野球界を席巻している。プロでは田中将大、坂本勇人、アマチュアでは斎藤佑樹。1歳下には中田翔や由規、唐川侑己と、言うなれば彼らは「ゴールデン・エイジ」となった。

 一方、その世代の筆頭と目されていたワンダーボーイは今、岐路に立たされている。戦力外になったこと、今後の野球人生について、20歳の若者はどのように考えているのだろう。一次、二次のトライアウトでの辻本のコメントをまとめればこうなる。

「プロの世界において20歳で戦力外になることは当たり前のことだと思います。まだ、どこからもオファーはきていませんが、日本の球団で野球を続けたい。独立リーグや海外も頭には入っていますけど、それはまだ具体的に考えていません」

 模範解答を聞いているようだった。個人的には20歳でクビになることが当たり前なことではないと思っているし、5年のプロ生活は別として、2度のトライアウトの投球には「力を出せた」と言ってほしくはなかった。

 辻本は物静かな男だ。性格もあるだろうから語調までは求めないが、こういうコメント内容を本当は期待していた。

「トライアウトでの投球は全然、納得していません。僕の力はこんなものじゃない。年齢も20歳だし、まだまだ伸びる自信がある。それを証明するために日本で野球を続けたいんです。だから、宜しくお願いします」

 やっぱり、これくらいの負けん気はほしい。

 だってまだ、ハタチなんだから。

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