野球善哉BACK NUMBER
城島健司がもたらす「ふたつの作用」。
~強化と育成のバランスが課題~
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKYODO
posted2010/01/12 10:30
ワールドシリーズ終了直後、阪神に正式入団。4年間の複数年契約で総額20億円+出来高払いとなった。背番号は2
「ポスト矢野」の萌芽が摘み取られてしまう懸念が……。
それが、昨季は千載一遇のチャンスが訪れた。オフに右ひじを手術した矢野が開幕に間に合いそうにないと判断されたのだ。若手の捕手陣にとってはレギュラー奪取そして、試合の経験を積めるという機会に恵まれることになった。
真弓監督も狩野をレギュラーに据えながら、岡崎、清水を交互に、一、二軍を行き来させ、一軍の空気を吸わせながら、ファームでの実戦もつませてきた。
昨年1年は狩野がマスクをかぶり、正捕手として矢野を脅かす存在にもなった。盗塁阻止率やリード面では課題が残ったとはいえ、能見や岩田ら、若手投手陣の信頼を勝ち取るようになっていたのだ。
そこに城島が加入するというのはどういうことか。
単に狩野の出場機会だけの問題ではない。ポスト矢野を育成するために、我慢して使い続けてきたチームとしての方針が崩れかねないということである。若手育成を放棄しようとする方針がファームにいる若手の選手たちに影響しやしないか、と思うのである。
かつて巨人で売り出し中の矢野謙次がいるのに、FAでのチーム強化に走り、彼が消えていったようなことが阪神にも起こりうるのではないか、という懸念が浮上してくるのだ。将来を見据えると、不安が付きまとってくる。
FA依存のフロント陣は5年後をどうイメージしているか?
先月、赤星が電撃引退を表明したばかりだが、今後の阪神には金本をはじめとして、関本や下柳らの後を担う選手を育てていかなければならないという課題が押し寄せてくる。5年から先を見据えた課題が山積みなのである。
そうした中で、FAなどでの強化に頼るという姿勢は選手が育つ環境を阻害していくように思える。強化と育成のバランスをとることこそが、常勝チームを作る礎になるのではないか。
今シーズンの優勝を狙うには、城島の加入はプラスだろう。いや、彼の契約が残る最低4年は捕手・右の強打者の補強をしなくて済むだろうし、金本が引退した後の4番候補もできそうな予感はある。
しかし、果たしてそれが5年後のチームに好影響を与えるのだろうか。
現在、報道されている未更改選手たちが球団に問いたいのは、そうした球団姿勢なのではないか。いや、そうであるべきだろうと願っている。城島獲得には二つの側面があるということを、球団やファン、メディアは理解する必要があるだろう。