アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【ドリーム・チーム史上最大の挑戦】 まさかの敗戦、金メダルの夢は散った。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTsutomu Kishimoto/PHOTO KISHIMOTO
posted2004/08/25 00:00
長嶋ジャパンの金メダルの夢が断たれた。アテネ五輪野球の日本代表は24日、エリニコ・オリンピック・コンプレックスで豪州との準決勝を戦った。試合は日本が松坂、豪州がオキスプリングの両エースが激突、1点を争うクロスゲームなり、6回松坂がキングマンの適時打を浴びて失った1点が結果的には決勝点となってしまった。日本はシドニー五輪についで2大会連続で準決勝敗退。25日には銅メダルをかけてカナダと対戦する。
「打てなかったなあ……チクショウー! 1点も点を取れなかったのが悔しい。(長嶋)監督にも応援してくださった日本の国民の皆さんにも、本当に申し訳なく思います。すべては私の責任です」中畑ヘッドコーチが搾り出すように敗戦の弁を語った。まさか……。だが、試合展開はまさに日本が恐れていたものだった。
立ち上がりから厳しい投手戦が続いた。豪州先発のオキストリングは時速140km後半のストレートにカットボール、スライダー、カーブを制球良くコーナーに決めて日本打線の前に立ちはだかった。日本は3回には先頭の和田が左翼へ二塁打。藤本の送りバントで1死三塁と絶好の先制機を作ったが福留が空振り三振、宮本も一ゴロに倒れ、どうしてもホームを踏めない。
一方、日本先発の松坂も立ち上がりから気合の入ったピッチングを見せた。17日のキューバ戦で右上腕部に打球を受けて以来、中6日のマウンドだったが、1回にいきなりストレートが時速160kmをマーク。またストレート狙いの豪州打線に対してスライダーを中心にした変化球をうまく使いながら、こちらも淡々とゼロを積み重ねていった。
試合が動いたのは7回だった。1死から豪州は2番のロンバーグが三遊間を破って出塁。続く3番のニルソンとの勝負が一つのポイントになった。この日の松坂は左バッターに対して外角高めのつり球気味のストレートと膝元へのスライダーが決め球となっていた。2―3とニルソンを追い込んでからまず2球、ストレートで空振りをとりにいったがいずれもファウル。3球目には膝元へのスライダーで勝負に出たが、これもファウルで逃げられてしまった。そこでもう一球、厳しいコースにスライダーを投げたがこれが外れて、結局ニルソンを歩かせることになってしまう。
そして迎えたキングマンの2球目。外角へのスライダーを右前に弾き返されスコアボードに1点が刻まれた。
「絶対に先に点をやらない気持ちで投げていたので、そのことが悔しい」松坂が唇を噛んだ。
1点を先制された直後の7回の攻撃では2死から2つの敵失で一、三塁と同点機を作った。しかしここで豪州は2番手に阪神の守護神・ウイリアムスを投入。藤本とのタイガース対決となったが、藤本が三飛に倒れウイリアムスに軍配が上がった。最後も城島がセーフティーバントを試みるなど日本は何とかチャンスを作ろうと必死の姿勢を見せたが、ウイリアムスの前に三人で切って取られた。
まさかの準決勝敗退。最終打者の谷は一塁に走り込んだ際に右足首を捻挫。そのまま背負われてグラウンドを後にした。ナインたちも信じられない敗戦に、しばらく呆然としままグラウンドを見つめていたが、それでもキャプテンの宮本を中心に「まだあしたの銅メダルが残ってますから」と気持ちを切り換えて次の戦いに向かうことを誓った。
「正直、とても悔しい。しかし、それ以上に諸君たちはもっと悔しいでしょう。勝っておごらず、負けてくさらず。あしたの試合も今まで通り、全力で戦ってください。諸君たちのためのオリンピックだったと思うためには、有終の美を飾ることがとても大切です」試合後に長嶋監督からはこんなコメントが寄せられた。まだ次がある。プロとしてどんな状況になっても、やらねばならない仕事は残されているのだ。
目の前の試合を全力で勝つ―その姿を見せてくれれば、応援してきたファンにとりブロンズ色のメダルでも十分な輝きを放って見えるはずだ。