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ヴォルフスブルク、歓喜のとき。
~マガト監督が見せた「復讐劇」~ 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byBongarts/Getty Images

posted2009/05/27 06:01

ヴォルフスブルク、歓喜のとき。~マガト監督が見せた「復讐劇」~<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images

人間の経験と理解力の深さは、コンピュータの分析に優る。

 最終戦の4日前、ミュンヘンに本拠を置くラジオ局の依頼を受けたマガトはインタビューの場所に「ミュンヘン市庁舎のバルコニー」を指定してきた。この場所はバイエルンが優勝した時、ファンにその姿を披露する“お立ち台”として有名だ。「もう3年間もここに上ったことがなくてね。しかし、いい眺めだな」と冷たい笑みを浮かべた。

 これにカチンときた聞き手は、マガトのやり方を「何もかもあなたの自由になるヴォルフスブルクでは、民主主義よりも独裁が支配しているわけですか?」とやった。すると彼は、「違う。ヴォルフスブルクでの成功とは、私の経験と理解力の深さによるものだ。これこそがサッカーでは最良の教師なのだ。経験豊かな人物の声を聞けば、人生の多くの分野で得るのものが大きい。だが今はトレンド(流行)に振り回されている」と切り返した。

 すなわちマガトは、指導経験の浅いクリンスマン前監督と、コンピューターなど最新のテクノロジーに傾倒しつつあるバイエルンをこれ以上ないセリフで皮肉ったのである。「チームワークがあるか、お互いにチームメイトとして仲良く出来るか。それを判断できる目も耳も私は2つずつ持っている」ことも、全ての事柄を会長、GM、監督、監査役の4人全員一致の合議制を採るバイエルンを意識してのアイロニーだ。

バイエルン・ヘーネスGMの“嫌み”は失敗の懺悔だ。

 ここまで徹底的にコケにされたバイエルンも黙ってはいなかった。バイエルンのヘーネスGMは「最終節には数々のドラマが生まれるものだ」と逆転優勝へプレッシャーをかけた。33節時点での勝ち点は、1位ヴォルフスブルクが66、2位バイエルンと3位シュツットガルトが64。最終節は2位vs3位の直接対決。チャンピオンズリーグ出場権もかかっている。さらに4位のチームが勝ち点1差で追っている。ヴォルフスブルクの相手はUEFAカップで負けて意気消沈するブレーメン。こういう条件が揃っていたのだ。ヴォルフスブルクの優位が動くはずもない。

 こうして優勝を果たしたヴォルフスブルク。オープンカーで繰り出す姿を映像で見たが、小さな町ゆえ、ミュンヘンやバルセロナ、マンチェスターなどで見慣れた光景とはかなり様子が異なる。何というか、やっぱり田舎のパレードなのである。人口がこの程度なので仕方がない。また、この町の市役所にはバルコニーがないため、急きょ広場にお立ち台を設営しての優勝報告会となった。ヘーネスGMは「あのクラブはバルコニーを作る金を十分に持っているはずだけど」と最後の嫌味を言い放ったが、せいぜい強がりである。彼はマガトをクビにした己の失敗を最後まで後悔していたはずで、そのことを公に認めたくないのだ。

古巣へのリベンジを果たしたマイスターの新たなる挑戦は?

 ウインターコルン社長は「優勝出来たのは、1にVW社の資金力、2にGMの目利き、3に監督の指導力」と分析した。またスペインのラジオ局は、「1人のメガパワーがチームを優勝に導いた。彼ならレアルでもバルサでも適任者」だとベタ褒めするなど、マガートへの賞賛が続いている。

 現役時代はハンブルガーSVで3度のリーグ優勝と1度のチャンピオンズカップ優勝を経験、監督としてはこれで3度目のリーグ優勝である。国内最高のクラブ指導者として認知されたマガト。自分の首に鈴を付けた張本人はまもなくサッカー界から引退する。バイエルンへの怨嗟がこれをキッカケに断ち切れたのであれば、彼の次なる挑戦(来季はシャルケ04監督)に期待したいものである。

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