野球善哉BACK NUMBER
小松聖の粘投にみる、
オリックス劇的復活の序章。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/07/22 12:30
再び取り戻した自分のスタイル。変化球を増やした頭脳的投球。
その頃と比べると、7月15日の大石監督の試合前の囲み取材はとにかく明るかった。何かの希望に満ちているような弾んだ声。そしてこの日、先発する予定の小松をさして、指揮官はこう言い放ったのだ。
「チームにとって大事なのは勝利でしょうけど、本人にとっては内容でしょう」
立ち上がりこそは不安定で、開幕当初と同じようにストレートを痛打される場面が目立ったが、中盤以降に持ち直した。昨シーズンのように、変化球を巧みに使い、的を絞らせない。走者を出しても粘り強く、である。結果は、9回5安打2失点完投勝利。今シーズン初めての勝利を、完投で飾ったのだ。「昨年のような変化球で打ち取るということができていましたね」という大石監督の言葉こそが、小松の復調を意味していた。
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ただ、この試合、大石監督はギャンブルを打っている。
8回裏に逆転したこの試合は、オリックスの理想的な形として、小松に勝利をつけた上で守護神の加藤大輔につなぐべきものだった。だが、指揮官は小松の続投を選んだのだ。小松がここで打たれてしまえば、ややもすると、これまでの粘投が水泡に帰しかねない……そんな状況下での小松続投だった。
なんとか小松をエースにしたい……大石監督の願いは叶うのか?
ここに、指揮官の開幕時からの小松への“期待”が感じられる。やはり、オリックスには小松がいなければいけないんだ、と。まだ大エースではないのだがダルビッシュや岩隈のように扱い、開幕投手に抜擢した思惑と重なる“期待”が垣間見られる。
「球数と小松の変化球にロッテ打線があっていなかったというのもあります。ここで打たれちゃうと、というのも考えましたけど、9回も投げさせて、本人にこの試合の白黒をつけさせたいという気持ちで送りだしました。チームにとっても大きな1勝。きょう投げ切れたのは大きな1勝になったんじゃないか」
この試合の直後、大石監督が記者に囲まれていた小松のもとへ足を運び、両手でガッシリと握手を交わす光景までが見られた。
復帰2戦目となった7月22日の西武戦では5回途中4失点で降板したので、まだ昨シーズンのレベルにまで完全復調したとは言えない。だが内容だけを見ると、変化球を駆使したピッチングで打者を打ち取る様は小松らしさを予期させるものである。オリックスに見えた明るい雰囲気は、オールスター休暇を経たあとの小松の完全復調で、さらに劇的に好転するかもしれない……。