野ボール横丁BACK NUMBER
“おかわり君”中村剛也、
驚異の変化球打ちでHR量産中。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/07/13 12:15
やっぱり、今でもそうなのだ……。
遠い記憶が突然、鮮やかに蘇った。7月3日、中村剛也が、楽天の田中将大からホームランを打った瞬間のことだ。
田中の伝家の宝刀、スライダーをものの見事にとらえたのだ。136kmの、やや外よりの低めのスライダーだった。それを両膝を折りながら掬い上げ、バックスクリーンに放り込んだ。田中の失投というには酷だ。中村の技術が勝っていたのだ。
真っ直ぐは投げてこない……それこそが中村の思う壺。
「変化球が打てることです」
8年前の夏、大阪桐蔭の3年生だった頃の中村に話を聞いたことがある。何を聞いても要領を得なかった中村が「ここだけは人に負けないと思うところは」と尋ねたときだけ、そうはっきりと答えたのだ。
「変化球の方が多いので、いちおう、7対3ぐらいの感覚で変化球を待っています。変化球の方が飛ぶんです。抜いた変化球がいちばん打ちやすい」
そのとき中村は高校通算で71本もの本塁打をマークしていた。相手も警戒し、おいそれとは真っ直ぐは投げてこなかった。だが、それこそが中村の思う壺だったのだ。
それにしても驚いた。高校生レベルで、変化球をそれだけの確率で待っている打者はそうはいない。打者という生き物は、速い球に詰まらされることを怖れ、本能的に真っ直ぐを待ちたくなるものなのだ。
イチローなど限られた打者だけがたどり着く究極の境地へ。
遅いボールを意識しながら、速いボールに対応していく。それはプロの世界でもイチローなど限られた打者しかたどり着くことのできない、いわば究極の境地だ。投手のレベルが違うとはいえ、中村はまだ坊主頭だった頃にその第一歩を踏み出していたのだ。
田中からホームランを打った5日後、日本ハムのダルビッシュから打った左翼席へのホームランも変化球だった。高めに浮いたスライダー。しかも初球。変化球にねらいを定めていた証拠だ。