MLB Column from USABACK NUMBER
レッドソックスが仕掛けた
幻の大型トレード。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2009/08/12 11:30
ベネズエラ出身のヘルナンデスは、'05年に19歳の若さでメジャーデビューを果たしている。今年のWBCでも母国のエースとして活躍した
なぜマリナーズは若きエースを手放そうとしたのか?
そもそも、マリナーズのファームに有望選手が枯渇してしまった最大の原因は、一昨年に断行したエリック・ベダード獲得にあった。有望選手と引き替えに獲得したベダードが、ここまで故障で欠場がちであるのとは対照的に、オリオールズに差し出したアダム・ジョーンズは今季オールスター戦に出場するまでにブレークしたし、クリス・ティルマンも有望選手上位50人中3位にランクされる投手に成長した。ベダード獲得で失った有望選手のマイナスを、ヘルナンデス放出の際に大幅なプラスに書き変えることが可能となるのである。
シアトル・タイムズのジェフ・ベイカー記者によると、こういった状況を見透かしたレッドソックスが、マリナーズにオファーした交換条件とは、「若手有望選手8人のリストから、誰でも5人を獲ってよい」というものだった。しかも、レッドソックスが提示した有望選手リストは、すでにメジャーで活躍中の若手選手4人が含まれるという「豪華」なものだったが、マリナーズを満足させるにはいたらなかった。
しかし、レッドソックスも簡単には引き下がらず、次なる手段として、パドレスを巻き込んだ三角トレードを画策した。若手有望選手に加えて強打者エイドリアン・ゴンザレス(27歳、OPS9割2分7厘)を差し出すというオファーに、マリナーズも食指をのばしかけたというが、結局、「フェルナンデスを高く売るチャンスはまたやってくる。放出を急ぐ必要はない」と自重、大型三角トレードは幻と終わったのだった。
今回のトレード話は不成立に終わったが、ヘルナンデスはまだまだ伸び盛り。移籍した場合、メジャーの戦力バランスに大きな地殻変動を起こしかねない力の持ち主であるだけに、しばらく、その動向からは目が離せない。