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コンフェデ杯、スペイン敗退の裏事情。
~無敵艦隊を沈めた「見えない敵」~ 

text by

横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2009/07/05 06:00

コンフェデ杯、スペイン敗退の裏事情。~無敵艦隊を沈めた「見えない敵」~<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

国際Aマッチの連勝記録が15でストップしたスペイン。同時に連続無敗記録も35で止まった。

南アの全メディアが突如スペイン代表を攻撃し始める。

 そこで、反撃の矛先をアロンソとスペインに向けた。同様のヴヴゼーラ反対論はブラジルのロビーニョもルイス・ファビアーノも、W杯の下見に現地を訪れていたオランダ代表のファン・マルワイク監督も唱えている。だが、アロンソは国内に多くのファンを持つリヴァプール所属。その上、彼の発言を真っ先に拾い上げた英国メディアは、スペインを人種差別が横行する国と考えている。そのニュアンスは英国と文化的に近しい関係にある南アフリカにも当然伝わる。

 ヨハネスブルグで発行されているスター紙のあるコラムニストは次のように書いていた。

「スペインにヴヴゼーラを数万本送ってやろう。彼らのスタジアムで発せられる人種差別的コールが聞こえなくなるように」

 南アフリカ最大の日刊紙デイリー・サンは、準決勝スペイン対アメリカが行われた日の一面にヴヴゼーラの写真と次の文を掲載した。

「今日のデイリー・サンはヴヴゼーラと共にある。そして、ワールドカップが終わるまでこのままずっと一緒! 我らはうるさい南アフリカ人。ここは静かな場所ではない! 外国人は慣れるべし!」

憧れの“無敵艦隊”が、憎むべき“傲慢”へと変わった。

 その一戦をヨハネスブルグ市内の巨大モニター脇で取材した地元記者によると、観ていたファンのほとんどはアメリカを応援していたという。「ヴヴゼーラの一件で、スペインは非常に傲慢という印象を受けた」からという理由で。

 アロンソとスペインにとっては、どうにも不運な出来事だった。彼は差別的意識をもってヴヴゼーラを嫌ったわけではない。帝国主義的でも感情的でもない。コメント中の省略された部分で「酷い騒音」という言葉は使っていたものの、基本的には試合に集中しづらくなること、そしてチームメイトや監督とコミュニケーションを図るのが難しくなることを懸念しただけである。それが反ヴヴゼーラ派の先鋒に仕立て上げられてしまったのだから。

 いずれにせよ、ヴヴゼーラの問題は来年のW杯に向けてFIFAの内外で論じられていくだろう。ブラッター会長は現在のところスタジアム持ち込みに肯定的な立場を取っているが、欧州の、特に放送メディアからの圧力は小さくない。決勝戦直前のスタジアムでは、某国のテレビ局が各国ジャーナリストの意見を求め、カメラを持って取材していた。一席ぶってやろうと構えていた筆者は、最初に「ヴヴゼーラ賛成」を表明したところ、素通りされてしまった。

 さて、筆者がこのコラムを担当するのはこれが最後になる。代表のユーロ優勝で始まりバルセロナのCL制覇で幕を下した、スペインサッカーにとっては記念すべき1年をこのサイトの読者と共に過ごすことができ、とても嬉しく思っている。

 この夏スターを買い集めているレアルを中心に、リーガは来シーズンも絶対に面白い。引き続き注目してもらいたい。

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