野ボール横丁BACK NUMBER
“異端の投球哲学”を持つ唐川侑己。
その美しすぎるフォームの秘密。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/07/11 11:40
最速148キロを投げることもできるが、普段は130キロ台でコントロールとキレを優先したピッチングしかしない唐川。昨年はケガに泣かされたが、今年は開幕から好調を維持している
本気で話してる?
高校時代、インタビュー中に、何度となく、そんなことを言った記憶がある。
そして、そのたびにこんな風に笑って誤魔化されたものだ。
「よく言われます。人と話してても、『今、流した?』って」
ストレートがこれといって速いわけでもない。変化球のキレが特別鋭いわけでもない。それでも7月10日現在、リーグ4位となる防御率1.806を維持している千葉ロッテの唐川侑己の投球はこう形容されることが多い。
捕らえ所がない――。
その「感じ」は、マウンド上だけではない。
オニギリ。
成田高校時代、唐川は一部のスタッフと部員からそう呼ばれていた。
どこがどうというわけではないのだが、確かに、帽子を取ったとき、坊主頭の唐川はノリを巻いた三角形のオニギリを想起させた。唐川の話しぶりが、ほんわかとした雰囲気を漂わせていたことも、そのイメージ作りを手伝っていたように思う。
「できるだけ楽をしたいっていうのがあるので」
唐川は、その頃から「力投派」に分類されるタイプの投手とは、あらゆる面で対照的だった。
「状況とか相手の打者を見て、けっこう手を抜いてます。昔からやってましたね、そういうことは。できるだけ楽をしたいっていうのがあるので」
高校1年冬、選抜大会出場を控えていたときだ。対戦したいチームを問うと、こう答えた。
「特にないです。あまり知らないんで、高校野球」
プロ志望ということで、プロに入って対戦したい打者を尋ねたときも、似たようなリアクションが返ってきた。
「あんまりいいバッターとは対戦したくないですね。だって、打たれる可能性もあるわけじゃないですか。まあ、やると決まったら、やるしかないんですけど……」
最後の夏を迎える直前、「夏に向けて、何か言い残したことある?」と聞いたときなどはこうだ。
「あ、この前、ランニングしてて、初めて足がつりました。運動してなかったからでしょうね。テスト明けで。今もけっこうつってる感じです。あんまり関係ないですね。はははは」
手ごたえがないものだから、こちらも、つい変に力が入ってしまう。結果、何となくかわされる――。