プロ野球亭日乗BACK NUMBER
不振の巨人には常識の打破が必要!?
“守護神”澤村が化学反応を起こす。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTamon Matsuzono
posted2011/07/10 08:00
7月3日の中日戦では自己ワーストの5失点KOをくらい6敗目を喫した澤村拓一。崩れてきたフォームを直すための試行錯誤が続く……
クローザーは過酷な職業である。
「8回成功しても大事な試合で2回失敗すれば、失格という烙印を押される。でも、10回登板して10回成功するクローザーなんて見たことがない。ただ、一人、それに近い存在がいるとしたら、それはニューヨーク・ヤンキースのマリアノ・リベラだけですよ」
自らもクローザー経験のある解説者の武田一浩さんは、こう抑えの難しさを語っている。
確かにリベラはリーグ最多の53セーブを挙げた2004年には、57セーブ機会に登板して、失敗はわずかに4回しかなかった。成功率にすると93%。'08年には40セーブ機会の登板で失敗はわずかに1回。成功率は何と98%という驚異的な数字も残している。
ただ、そんなリベラでも今季の成功率(7月5日、日本時間同6日現在)は84%にとどまっている。10回マウンドに上がれば、2回弱は失敗する。しかも完ぺきに三者凡退でセーブを挙げられるのは半分程度で、あとは1点差でも走者を出して、ベンチの肝を冷やしながら、結果的に成功しているわけなのだ。
「先発失格の烙印を押された投手の役割」という“偏見”。
それぐらい難しいポジションだが、日本ではまだクローザーに対して、少なからず“偏見”があるのも確かだろう。
先発完投が投手の本来の姿──日本ではこの考えが支配的だ。
そのため、どうしてもリリーフ、クローザーは「先発で失敗した投手、あるいは先発が向かなくて生き場所を見つけた投手」という見かたがどこかにある。
今年の球宴では中日の絶対守護神・岩瀬仁紀投手が、第1戦でセ・リーグの先発投手を務めるという。
その起用を決めた中日・落合博満監督は、「ご褒美」と表現した。
やはりそこには、どこか “偏見”が見え隠れする。クローザー・岩瀬を最も評価しているはずの落合監督でも(だから?)、どこかに先発とリリーフではイコールで結べない価値の違いを抱いているわけなのだ。
大石を「先発で大きく育てる」とした渡辺監督の先発完投優先の思想。
だから有望な新人をいきなりクローザーで起用することはなかなか難しい。
例えば今年のルーキーでは最も抑え候補に近かったのが、西武に1巡目で指名された大石達也投手だった。
早大時代には日本ハム・斎藤佑樹投手、広島・福井優也投手が先発して、この大石がクローザーとして最後を締めてきた。ボールも速く、アマチュア野球とはいえ抑えとしての経験も十分に積んでいる。そういう意味では、1年目からクローザーに抜てきしても、決しておかしくない投手だったはずだ。
しかし、西武の渡辺久信監督は違った。
「先発で大きく育てる」
チーム事情もあったが、そこには先発完投優先思想ともいえる“偏見”もあった。
そうして大石はキャンプから先発にチャレンジ。結果的には故障などもあり、未だに1軍のマウンドには上がれないでいる。