チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
ラウールの真価。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2007/10/23 00:00
1977年6月27日生まれの30歳。ラウールはつい4ヶ月前まで20歳代だった。この事実に違和感を持たない人は、どれほどいるだろうか。
ラウールが初めてチャンピオンズリーグの舞台を踏んだのは95−96シーズン。12シーズン前の話になる。18歳の時だった。以来、ほぼフル出場。通算出場試合数112は、チャンピオンズリーグの最多出場記録だ。現在も、出場する毎に記録を更新する超ベテランながら、年齢はわずかに30歳。
僕は、2、3年前の動きを見て、ラウールももはや限界か。先は長くないと予想した。キレ、スピードは、見るたびに低下していた。当時27、28歳ながら、晩年を迎えた選手のように老いて見えた。年齢を聞かされて、驚いた記憶がある。彼が生え抜きの看板選手でなかったら、その時点で、放出されていたに違いない。
しかしいま、彼にそんな哀れな目線を送る必要は全くない。30歳のいまの方が、2、3年前より動きは断然良い。キレは蘇っている。持ち前の技術も、いかんなく発揮されている。年齢不詳にさえ見えてくる。
その理由の一つに体型がある。デビュー当時と、その12年後とで、ここまで変化が少ない選手も珍しい。サッカー少年風の面影は、いまだ健在だ。加齢臭がしてこないのだ。
デルピエーロと比較すると分かりやすい。彼はラウールの3歳年上ながら、チャンピオンズリーグデビューは、95−96シーズンで一致する。イタリア期待の新星は、そのシーズン、21歳の若さで欧州チャンピオンに輝いている。イタリアのデルピエーロとスペインのラウールは、両国期待の新星として、並び称される存在だった。
そしてデルピエーロも27、28歳で下り坂を迎えた。気がつけば体型は、デビュー当時と大きく変化していた。体型そのものに衰えが見て取れた。デルピエーロはその後も一線で活躍しているが、全盛期を知るものには、昔とは異なる丸みを帯びた背中が、哀れに見えて仕方がない。と、同時に、ラウールの特殊性を浮き彫りにしてくれる。
プレイの特徴でも、他に似た選手を見つけることは難しい。ラウールは、チャンピオンズリーグ出場回数でも1位ながら、通算得点ランキングでも1位に立つ。112試合に出場して56ゴールをマークしている。
53点で2位につけるファンニステルローイは、本格派のストライカー。3位のシェフチェンコ(46点)、4位のアンリ(43点)も、ストライカーという言い方がよく似合うゴールハンターだ。ラウールとはキャラが違う。
似ている選手を挙げれば、73試合に出場し、37ゴール(6位)を叩きだしているデルピエーロになる。
両者を一言で括れば、技巧派のセカンドストライカーとなる。デルピエーロは、3−4−1−2で臨んだ時には、2トップ下に収まることもあったが、4−4−2では2トップの一角か、左のサイドハーフが多かった。すなわち、ユーティリティ性に富んでいた。
ラウールにも様々なポジションをこなす能力がある。4−2−3−1の布陣なら、1トップ下はもちろん「3」の左右で、ウイング的なプレイもできる。それでいながら、ゴール前にも飛び込んでいく。ヘッドでゴールもしばしば決める。
パッサータイプのデルピエーロに比べると、流動的なプレイが目立つ。流れながら得点に絡むのがラウール。得意のキックで得点を狙うのがデルピエーロ。
両者の違いが際だつのは身長だ。デルピエーロが173センチなのに対し、ラウールは181センチ。一見すれば、同じくらいに見えるが、実際には8センチもの差がある。ラウールを直に見て、改めて驚かされる点だ。
日本で言えば大型FWだ。大型なのに技巧派というわけだ。そこにラウールの特殊性がある。デルピエーロ型は、日本にもいそうだが、ラウール型は日本はもとより、世界的にも珍しい存在だ。そのうえ、通算の得点王でもあり、最も息の長い選手でもある。「賞」をもらえずにここまできた理由も、そこにあるのではないか。その捕らえどころのないプレイより、分かりやすいプレイの方が評価は下しやすい。通算成績は1位ながら、欧州年間最優秀選手賞の受賞経験はない。最も可能性があった2001年でさえ、オーウェンに次いで2位に終わっている。
元気が蘇ったラウールが、ファンニステルローイとともに、相手ゴールに押し寄せていく姿を見ると「サッカー界の盲点ここにあり」と、思わず言いたくなる。2人といないタイプ。それがラウールの真髄だ。