佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
不完全燃焼ながら、得点獲得
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta
posted2004/09/30 00:00
聞きしに優るというのはこういうことをいうのだろう。初めて訪れた上海市、そして上海国際サーキットのスケールの大きさにはドギモを抜かれた。広大な水田地帯を埋め立て、建設費用が250億円以上かかったというサーキットはチームホスピタリティ、プレスルームなど付帯設備を含めてまごうかたなく世界最高。セパン、バーレーンを超え、インディアナポリスが可愛そうになるくらいにデカくモダンだった。
そんな中で戦うアジア唯一の星・佐藤琢磨。金曜日の午後に走り出したかと思ったらいきなりエンジン・ブロー。フランスGP以来7戦ぶりの大白煙が上がった。
上海はむろん初めてのサーキットである。ようやく道(コースレイアウト)を覚えたかどうかという大事な時間帯に予選グリッド10番降格のペナルティを背負ってしまったのは痛かった。もうエンジン・ブロー病は完治したかと思ったが、今回のそれは「距離を走っていませんし、楽な使い方をしていたので原因は信頼耐久性に関係のない領域。あくまでもイレギュラーなものです」と、ホンダ側は説明する。
載せ換えられたエンジンはモンツァと上海の中間スペック。あと0.1秒の伸びが足りず、まともなら4位のタイムが出ていてもおかしくなかった。そうだったら14番手スタートだったのだが、結果は9位。本予選のでスピンしてノータイムに終ったシューマッハーのエンジン載せ換えもあって、琢磨は18番グリッド。
そこから佐藤琢磨はいつになく慎重にレースをすすめ、ガマン一徹の末、6位でフィニッシュした。ヘビーフューエルの2回ストップ作戦が成功したとはいえ、重いマシンで戦うのは苦しい。26周目の最終コーナーではスピン寸前。それをプレスルームで目撃。思わず「やっちゃった〜ッ!」と声を挙げそうなくらいヒヤッとした。そんなきびしい状況の中で見事得点につなげた仕事をホンダの木内健雄F1プロジェクトリーダーは「1年でよく成長した」と高く評価。その一言は我々琢磨ファンにはニンマリするほど嬉しいのだが“初物に強い”佐藤琢磨にはハンデなしの“腹一杯”のレースをして欲しかった。レースに“……タラ……レバ”はないとは分かっているのだが、エンジン交換のハンデがなければ……と思ってしまう一戦だった。
当の琢磨は「ガソリンをいっぱい積んでいたので長いレースになると分かっていたので、1コーナーは慎重に行きました」とレースを振り返るが、不完全燃焼だった気配が漂う。
今回のレースでBARホンダはコンストラクターズ・ランキング3位以上が確定。琢磨は「これで鈴鹿でのチームのプレッシャーも軽くなった」と言ったが、仮に金曜日のブローがなければ、琢磨の鈴鹿でのプレッシャーはさらに軽くなったのではなかったかと、それが残念。好成績は新たなるプレッシャーを産む。しかし不完全燃焼から来るプレッシャーよりははるかに建設的だ。
10・10鈴鹿決戦。佐藤琢磨はどんなレースで上海のリベンジを果たすのだろうか。