MLB Column from USABACK NUMBER
マニー・ラミレスが犯した二つの大罪。
~薬剤汚染だけじゃない!~
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2009/05/23 06:00
前回に続いて、マニー・ラミレスの薬剤汚染について論じる。
ラミレスが出場停止処分を受けたことに、ドジャースのオーナー、フランク・マッコートが激怒したのは言うまでもない。契約期間2年・総額4500万ドルという「破格」の条件で今年3月に契約したばかりだったが、薬剤の効果でかさ上げされた成績を基に巨額の契約を結ばされたのだから「詐欺」にあったような気持ちにさせられたとしても無理はない(しかも、他に競争相手となる球団は存在しなかったのに破格の条件を提示したのは、後で説明するような事情からラミレスの機嫌を損じたくなかったからだった)。
以下に示すのは、ESPN・TV主任解説員ピーター・ギャモンズがまとめたデータだ。
昨年7月31日にドジャースに移籍した後、今回の出場停止処分まで、若いときを上回る驚異的な打撃成績を残してきたことがおわかりいただけるだろうか。
バリー・ボンズ、ロジャー・クレメンスもそうだったが、歳を取ってから若いとき以上の活躍をするスター選手を見たら、これからは「薬を使っているに違いない。だから殿堂入りは無理」という風潮が益々強まるだろう。一方、その反対に、ケン・グリフィー・ジュニアの成績はここ数年間年齢相応に下降し続けたが、「薬を使っていない証拠だ。殿堂入り間違いなし」と、成績が落ちていることが潔白の「証」となって殿堂入りを確実にしているのだから皮肉である。
ラミレスがレッドソックス時代に行ったサボタージュ。
ところで、ドジャースはラミレスに破格の年俸を払ったと書いたが、その理由は、昨年、ラミレスがレッドソックスに移籍を強要した経緯にあった。レッドソックスとの契約は、2009年・年俸2000万ドル、2010年・同じく年俸2000万ドルの条件で、チームがオプションを行使する権利を定めていたのだが、「2年続けてオプションを行使されたら多年高額契約を結ぶチャンスが永遠になくなってしまう。2008年終了時にFAになれば6年・1億5000万ドルの契約も夢ではない」と思い込んだラミレスは、シーズン終了時にFAとなる道を、恥も外聞もなく探ったのだった。
具体的に何をしたかというと、「出場拒否」あるいは「出場しても全力でプレーしない」というサボタージュ行為を繰り返したのである。当時、ラミレスは「膝が痛いから試合に出られない」と言い続けていたのだが、レッドソックスが、いざ病院に連れて行ってMRI検査を受けさせたところ、本人は、どちらの膝が痛かったのかを忘れてしまっていた。そこで、左右両方の膝を検査したのだが、両膝ともまったく異常はなかったのだった。
レッドソックス、ドジャース、そして野球ファンを裏切った。
さらに、高齢のチーム職員に暴力をふるうなどの問題行動も繰り返したため、「このままではチーム全体に悪影響を与える」と、レッドソックスは、放出せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。「2008年度の年俸残額をすべて負担。オプションの権利も放棄し、FAになる権利を保証する」という屈辱的条件を呑まされ、7月31日の移籍期限ぎりぎりでドジャースとのトレードを成立させたのだった。
と、以上のような「前科」があったため、ドジャース関係者には「もし、ラミレスの年俸を値切りすぎた場合、またサボタージュに走る危険がある」という懸念があったのである。だから、他に競争相手がいたわけでもなかったのに、レッドソックスの2年続けてのオプション総額4000万ドルを上回る4500万ドルを提示、ラミレスの面子を立てることに気を使ったのだった。
昨季、ラミレスがレッドソックスにトレードを強要した当時、ファンの間で、
(1)出場を拒否したり、全力プレーすることを拒否したりする罪
(2)ステロイドを使って成績をかさ上げし、高額の年俸をチームに払わせる罪
のどちらが、ファンやチームに対する罪として大きいかが議論になった。当時、ファンの間の意見はわかれたままで結論は出なかったが、ラミレスの場合、「大罪」二つを、二つとも犯していたのだから呆れざるを得ない。