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泣くな雄星!
逆転の花巻東、散る。 

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2009/08/24 12:03

泣くな雄星!逆転の花巻東、散る。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 考え得るシナリオのうち、もっとも可能性が高く、もっとも最悪の展開で、この夏の主役が甲子園を去った。

 準決勝の第2試合、中京大中京戦を前に、花巻東の佐々木洋監督はこう語っていた。

「2、3点差でしのいで、(菊池)雄星につなぎたい。雄星が出れば、ゲームが変わる」

 花巻東が勝つとしたら、その「現象」を期待するしかなかった。

 真っ先に思い出したのは、2006年の3回戦、駒大苫小牧と青森山田の試合だ。

駒大苫小牧・田中将大、横浜・松坂大輔と並ぶ奇跡を!

 駒大苫小牧は、不調の田中将大(楽天)を後ろに回し、二番手投手と三番手投手でいけるところまでいく作戦に出た。だが3回を終え、1-6と大量リードを許してしまう。だが3回途中、田中の登場した瞬間から球場の雰囲気が一変。駒大苫小牧は、最終的に10-9でサヨナラ勝ちを収める。

 古くは、1998年の準決勝、横浜-明徳義塾もそうだった。

 前日のPL学園戦で延長17回、250球を投げていた横浜の松坂大輔(レッドソックス)が先発を回避。横浜ベンチは2人の2年生投手に試合を託したが、明徳打線に打ち込まれ、8回表を終えた時点で0-6。誰もが横浜の敗戦を疑わなかった。

 ところが横浜が8回裏に4点を挙げ、松坂が9回表の登板に備えベンチ前でウォーミングアップを始めると、神風が吹いた。渡辺元智監督が「風圧を感じた」というほどの大歓声に後押しされ、9回表、松坂が明徳義塾の攻撃を3人で仕留める。するとその流れのままに、その裏、横浜は3点を挙げ7-6でサヨナラ勝ちしてしまったのだ。

菊池は田中、松坂に負けないカリスマ性があったが……。

 この夏の菊池にも、田中や松坂と同じぐらいの求心力、スター性があった。

 だが、いかんせん、菊池が負った故障は重すぎた。

 試合前、「呼吸するだけで苦しい」と話していた菊池は、初回からブルペンで準備をしていたのだが、苦しげに大きく深呼吸をしたり、顔を小さく歪め腰に手を当てる仕草をするなど、明らかに投げられそうな状態にはなかった。

 花巻東は、先発の吉田陵、二番手の猿川拓朗がことごとく打ち込まれ、4回途中で0-3。なおも2死満塁と攻め立てられ、中京大中京でもっともいい打者、3番河合完治を迎えたところで賭けに出る。

【次ページ】 真打ち・菊池の登場なのに0-6。事実上のゲームセット。

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