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パルメイロ ステロイド汚染の衝撃 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/08/04 00:00

パルメイロ ステロイド汚染の衝撃<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 メジャーでは、殿堂入りを確実とする記録は、打者の場合「500本塁打か3000本安打」、投手の場合「300勝」と言われている。オリオールズのラファエル・パルメイロは、7月15日に3000本安打を達成、すでに2003年には通算500本塁打も達成していたから、「殿堂入りを二重に確実にした」と言われていた。

 8月1日、そのパルメイロが、筋肉増強ステロイドを使用したと10日間の出場停止処分を科され、全米に大きな衝撃が走った。しかも、ただ「殿堂入り確実」の大選手であったというだけでなく、パルメイロの場合、今年3月に下院に証人喚問された際、議員達を睨みすえながら「ステロイドをやったことは金輪際ありません」ときっぱり宣言して「男を上げた」ばかりだっただけにショックは倍加した。三大テレビ局が、軒並み夕刻の全米ニュースのトップに報じたほどだったのである。

 そもそも、パルメイロが下院に証人喚問された理由は、「ステロイドの使い方を手ほどきしてやった」と、ホセ・カンセコの暴露本で名指しされたことだった。ところが、疑惑選手の一人として喚問されたはずだったのに、ステロイド使用を敢然と否定した「男ぶり」に議員達が感動、喚問終了後、パルメイロを下院の「薬剤使用根絶助言委員会」の委員に任命する「どんでん返し」の結果になったのだった。

 パルメイロの議会証言は、カンセコの暴露本の内容を全否定するものだったから、論理的には、「二人のうちのどちらかが嘘をついている」ことは明らかだった。しかし、もともと「クリーン・イメージ」で売っていたパルメイロと、「不良」のイメージがつきまとうカンセコとでは、証人としての「信憑性」は勝負にならなかったのだった。

 「薬物検査陽性」という、動かぬ証拠をつきつけられたいま、パルメイロは「知らずに使った。事故だった」と言い張っているが、その弁明を信じる向きは少ない。それどころか、ステロイド使用を敢然と否定した議会証言は嘘だったと、「偽証罪」で告発される可能性さえ論じられている。

 カンセコによると、パルメイロにステロイド使用を手ほどきしたのは、レンジャースでチームメートだった92―93年の頃という。「非力」な打者として知られていたパルメイロが、初めて30本以上を打ってホームラン打者に変身したのは、93年のこと(すでに28歳だった)であったから、カンセコの言うとおりとすれば、確かにつじつまはあう。

 ちなみに、イバン・ロドリゲス(99年ア・リーグMVP、現タイガース)も、当時のレンジャースでカンセコの手ほどきを受けた一人と名指しされたが、「カンセコの本はまったくの出鱈目」と全否定したことはパルメイロといっしょだった。しかし、今季、ロドリゲスは、「やせ細った」体でキャンプに現れ、「ステロイドを止めたせい」と噂された。「全否定の言葉とは裏腹に、体はカンセコの暴露が正しかったことを証言している」と囁かれたのである。

 3000本安打を達成がかかった今季、パルメイロは、5月半ばまで打率が2割2分台を低迷する、極度の不振にあえいだ。ところが、5月下旬から突然打棒が炸裂、7月15日には待望の3000本安打を達成した。「不正薬剤使用は許せない」と議会で証言した手前ステロイドを止めざるを得なかったが、大記録達成の誘惑に抗しきれず、薬剤使用に戻ったのだろうと言われている。

 ソウル・オリンピック100メートル走で金メダルを剥奪されたベン・ジョンソンは、その後も薬剤使用を繰り返し、ついに永久失格となったが、検査で「ばれる」可能性を承知しつつも薬剤使用に戻ってしまうのは、「常習者」に特有の習性と言ってよい。パルメイロの大記録が、筋肉増強剤の長期常習の結果であったとすると、これほど悲しいことはない。

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