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ビッテルの作った新記録
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/06/22 00:00
いまF1ファンの間で絶大な人気を誇るのは、開幕戦以来表彰台を外さないばかりか、カナダ、アメリカと連勝したことでチャンピオン候補の筆頭に祭り上げられた驚異の新人、ルイス・ハミルトンである。
もしこのまま順調に勝ち星を伸ばして王座に着けば、F1グランプリ史上例のない、デビューイヤー・チャンピオンという偉業を達成することになる。
今年22歳(1985年1月7日生まれ)の若きハミルトン、今年になってからさぞや多くのグランプリ記録を達成しただろうと調べてみると、これが意外にないものだ。
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たとえば、最年少ポールポジション、あるいは最年少優勝記録はどうかというと、灯台下暗しというか、身近に“目の上のタンコブ”がいる。チームメイトのチャンピオン、F・アロンソだ。アロンソの初優勝はハミルトンと同じ22歳だったが、22歳27日で達成している。ポールポジションは21歳の時。
ならば初表彰台は?と見ても、これまたアロンソ先生が21歳でやってのけている。どうも年齢がらみの記録に関しては、ハミルトンに残されているのは最年少チャンピオンくらいのものである(これも記録はアロンソが持っている)。
ところで、アメリカ・グランプリにはハミルトンよりもっと若いドライバーがデビューした。カナダ・グランプリでクラッシュしたR・クビカの代役としてBMWで出走したドイツ人のセバスチャン・ビッテルである。
年齢は驚くなかれ、19歳。これこそ記録だろうと調べてみたが、こっちも上には上がいるもので、M・サックエル、R・ロドリゲス、そしてF・アロンソが19歳になってから半年たらずでデビューしており、1987年7月3日生まれのビッテルは19歳11カ月14日で史上4位タイ。タイというのは、もうF1からは去ったが、エスティバン・トゥエロというアルゼンチンの若者がビッテルとまったく同じ年齢・月・日でデビューしているのだ。こうなると生まれた時間で雌雄を(?)決するしかない。
しかし、ビッテル少年はアメリカ・グランプリを8位でフィニッシュ。ひとつの記録を作った。史上最年少得点である。
これまでの記録保持者は現ホンダのジェンソン・バトンで、20歳と2カ月(2000年ブラジル)。ビッテルの記録は当分破れることがないだろう。
それにしてもビッテルにせよ、ハミルトンにせよ、年齢を考えると“恐るべき子供達”だが、これは促成栽培というより幼少の頃からのモータースポーツ環境に負うところが大。ゴーカートから始めてジュニア・フォーミュラへ進み、F1に来る頃には百戦錬磨どころか数百戦の“場数”を踏んでいるのだ。そういう意味では立派なベテランである。しかも、実戦デビューの前に徹底したテストランの機会を与えられているから、F1マシンの多くが手の内に入ってしまっている。ビッテルなど、19歳1カ月だった昨年の夏、トルコ・グランプリ金曜日のプラクティスで走り始めているのである(決勝に出場しなければデビューしたと認められない)。
それでもこのビッテル、チームからクビカに代わって出場を要請された木曜日の夜はうまく寝付かれず、金曜日の走りはイマイチだったと語っている。決して鼻歌交じりでF1グランプリ・デビューを果たしたわけではないらしい。ま、そうでなくては可愛げがないではないか。
神童ドライバー達の今後の活躍が楽しみである。