チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
驚きの抽選結果。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2004/12/27 00:00
バルセロナ対チェルシー。この抽選結果を聞いて、驚かずにはいられない。まさか、両者が決勝トーナメント1回戦で顔を合わせるとは。「事実上の決勝戦」という言い方では、他の試合、以降の試合を軽視することになりかねないし、この世界が途端につまらなく見えてくるので「決勝戦のカードであってもおかしくない対戦」にしておこうか。さらに、個人的な言い方を強めれば「いま最も見たい対戦カード」となる。
実際、ブックメーカーの優勝予想倍率でも、1位、2位を占める本命、対抗ながら、両者には、例年の優勝候補にはない新鮮なインパクトがある。サッカーが進化するスポーツであることを、それぞれの戦いを通して改めて証明している歓迎すべきリーダーだといえる。強豪でありながら好チーム。2月23日、現地時間20時45分が待ち遠しい限りだ。
バルサの魅力は、これまでにも何度か触れた通り、実力あるスター選手が、従来枠から外れたプレーをピッチの上で披露している点にある。とにかくよく守る。ボールを奪われた瞬間、積極的にボールと相手を追いかける。それがプレッシングというコンセプトの中で、組織的に行われている点がなにより素晴らしい。スター選手=ワガママ、守備には非協力的という常識が完璧に覆され、むしろ勤勉さを感じさせるところに革新的な色を感じる。昨年までの優勝候補、レアル・マドリーとの違いでもある。選手のポテンシャルとベンチワークとが高次元で融合したチーム、それが今季のバルサだ。
アブラモビッチ・マネーで、好選手を抱えることになったチェルシーも、選手はきわめて勤勉だ。課せられたいくつもの約束事の中で、個性を生かそうとしている。個々の力だけで爆発しているわけでは全くない。こちらも指揮官の存在感は大きい。モウリーニョは就任当初、マスコミからサッカーがつまらないとか、アグレッシブではないとか陰口を叩かれたが、左ウイング、ロッベンが戦列に加わるや一転、攻撃も華やかになっている。
ベンチありきのスタイルが、なぜ保てるのか。選手に妙な満腹感がないことも大きく影響している。スターではあるけれど、頂点を経験していない選手がほとんどだ。FIFA年間最優秀選手も、欧州年間最優秀選手もいない。(編集部注:12月20日、ロナウジーニョはFIFA2004年間最優秀選手に選出された)ジダン、フィーゴ、ロナウドもいなければ「広告王」ベッカムもいない。バルサ、チェルシーで何かを成し遂げたいと考えている選手ばかりで固められている。
「クラブ」としてのモチベーションも高い。バルサが最初で最後の優勝を経験したのは13年前。チェルシーは、この世界にあっては新参者といっても過言はない。
好勝負必至だ。決勝トーナメント1回戦という舞台設定も「良い試合を見たい」という第3者的な視点で捉えれば、むしろ大歓迎だ。仮に、90分一発勝負の決勝で対戦していたらどうだろうか。目の前に「優勝」「欧州No.1」がちらつけば、結果重視に拍車が掛かる。過去の決勝戦を振り返れば一目瞭然だ。準決勝でさえ危うい。舞台は、決勝トーナメント1回戦とは比べようもなく重い。
舞台の良い意味での軽さが、好試合の引き金になるのではないかと期待させる。しかも戦いは、アウェーゴールルール付きのホーム&アウェー戦だ。ベンチワークが及ぼす影響はいっそう大きくなる。そうした視点からも、試合を存分に堪能できる。
その意味で注目されるのが、冬の移籍マーケットで、戦列離脱者を数多く抱えるバルサが誰を獲得するかという点だ。それが当たればバルサ優位? 外れればチェルシー優位? 興味の尽きない一戦だ。
レアル・マドリー対ユベントス(2シーズン前の準決勝戦と同カード)、バイエルン対アーセナル、マンU対ミランも、よく考えれば凄いカードであるし、その他だって全て好試合必至と思しき好カードが組まれている。見逃しは禁物となるが、個人的にはリバプール対レバークーゼンを強く推す。こちらは3シーズン前の準々決勝と同一カードで、両者はそこで、類い希な撃ち合い、シーソーゲームの名勝負を演じている。ともに監督は交替し、メンバーとも大きく入れ替わっているが、3シーズン前を知る者にとっては、二匹目のドジョウは狙いたくなる。もし、その時のホーム&アウェー戦を見逃してしまった人は、このウィンターブレイクを利用して、どこからかビデオを調達し、観戦して欲しい。チャンピオンズリーグの真髄は、あの試合に集約されている。「2002年版リバプール対レバークーゼン」探し。少なくとも僕は、それに拘りながらCL観戦の旅を続けている。