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日本選手権やり投げ12連覇の31歳。
世界を目指し成長を続ける村上幸史。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2011/06/20 10:30
大会記録を22年ぶりに1m5cmも更新し、12連覇を達成した村上。スタンドでは3歳の長男が声援を送った
圧巻だった。
6月10日から熊谷で行なわれた日本陸上選手権最終日の12日、やり投げの村上幸史は、1投目で大会記録を22年ぶりに更新する82m75を記録。他の選手を寄せつけず、優勝を果たした。
「記録の更新を狙っていました。82mは、世界選手権の決勝進出ラインなのでうれしいです」
と、村上も素直に喜びを表した。
これで日本選手権12連覇である。長年、トップに君臨しているという事実にも十分価値があるが、それ以上に、昨年からの充実ぶりには、目を見張るものがある。
2009年の世界選手権で日本初となる銅メダルを獲得した第一人者。
村上は、2000年の日本選手権初優勝以来、日本の第一人者として活躍してきた。だが、2004年のアテネ、2008年の北京五輪、そして2005、2007年の世界選手権で予選落ちするなど、国際大会では結果を残せずにいた。
記録の面から見ても、2001年と2004年に80m台を投げたことはあるが、それ以外のシーズンは70m台にとどまっていた。
国内では勝っても世界の舞台では通用しない。
そんなシーズンが続いた村上の、飛躍の場になったのは2009年、ベルリンで行なわれた世界選手権である。
春シーズン、80m台を2度出して臨んだこの大会で、村上は自己ベストを5年ぶりに更新する83m10を予選で出すなどぞんぶんに力を発揮し、この種目では日本初となる銅メダルを獲得したのだ。
大会後、村上は、「前年の北京で、もう一歩で世界の上位でやれると思えました」と、快挙の理由を語っていた。
80m台を連発する選手たちに衝撃を受けたフィンランド遠征。
いずれにせよ、ベルリンで世界の上位の選手とともに戦い、結果を残した経験が転機となった。
2010年、レベルアップを図るために、やり投げの本場、フィンランドに遠征する。かの地で、80m台を連発する選手たちの姿に衝撃を受けると、その年の夏には、毎日30本ほどを投げ続けた。下半身への負担が大きいため、実際にやりを投げるのは週に2~3日にとどめる選手が多い中、異例の投げ込みを行なったのだ。
すると、昨年11月のアジア大会では、自己ベストを更新する83m15を出し、3度目の出場にして、初めてとなる金メダルを獲得した。
今年に入ると、さらに安定感は増す。最初の大会となった日本選抜和歌山で80m台を記録すると、5月のゴールデンGP川崎では、82m台を3本記録。80m台をひとつの大会で3本そろえるのは、自身、初めてのことだった。