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新戦力に沸くショートトラック。
注目株は20歳の若き女王・桜井美馬。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKYODO
posted2010/01/03 08:00
ショートトラック五輪代表選手たち。左から小沢美夏、伊藤亜由子、桜井美馬、酒井裕唯、貞包紘子。小沢だけはソルトレークシティとトリノの2つの五輪に出場している
ゴールすると、両手を力強く突き上げた。
「(手が)出てしまいました」
得意の1500mで優勝し、念願の五輪切符を手に入れた20歳の若き女王は笑みを浮かべて、声を弾ませた。
12月19・20日、バンクーバー五輪代表最終選考会を兼ねた全日本選手権が終了し、ショートトラックの五輪代表選手が決まった。ショートトラックは、「氷上の競輪」と呼ばれることもあるように、接触や転倒も珍しくない激しい競技である。ましてや選考会である。常にも増して、熱い戦いが繰り広げられる中、代表選手に選ばれたのは、男子が吉沢純平、高御堂雄三、藤本貴大、女子は酒井裕唯、桜井美馬、伊藤亜由子、貞包紘子、小沢美夏の計8名。藤本と小沢以外の6名は五輪初出場と、新鮮な顔ぶれとなった。
幼稚園からショートトラックひと筋の桜井美馬に注目。
この中でも注目されるのが、女子の桜井だ。1500m以外でも1000、3000m優勝。500mこそ2位だったものの総合優勝を果たし、4種目でオリンピック代表に内定した期待の若手だ。
経歴は、まさにショートトラックひと筋。
大阪生まれの桜井は、幼稚園生のとき、通っていたスケート教室で適性を見出され、ショートトラックを始めた。中学を卒業すると、「もっと速くなりたい」と、日本代表コーチの柏原幹史氏(現日本スケート連盟ショートトラック強化部長)の指導を受けるため、東京にスケート留学する。以来、寮で一人暮らしを続けてきた。
持ち前の前向きさで韓国人コーチとの壁を乗り越えた。
152cmと小柄ながら、優れたスピードと勝負どころを見極める感覚で順調に成長を続けていた桜井だったが、日本代表コーチが韓国の金善台氏に代わったことで昨シーズンは成績が伸び悩むこととなった。金氏と柏原氏との指導方針の違いに戸惑ったことなどが原因だったという。
桜井は、それを地道な努力で乗り越えようとした。
韓国語を学んでコーチとのコミュニケーションの徹底を図ろうと努め、分からないことは分かるまでしつこく聞きに行った。その執念あって、見事復調したばかりか、さらに飛躍を遂げた結果が、初のオリンピック出場であった。