濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
野望を遮られた男、川尻達也が
大晦日に見せた“冷たい怒り”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/01/15 10:30
開始早々からマウントポジションを取り、攻め続けて完勝を果たした川尻。一夜明けた会見では、「昨日の試合はなかなかテーマが見出せない試合だったんですが、横田選手という強い選手に勝ったのはプラスになったし、『格闘技が好きなんだ』ということを改めて確認しました」と冷静に語った
何者にもスポイルできなかった“強さ”。
格闘技界を盛り上げるためK-1の試合にさえ挑んだ川尻だったが、一年の最後で格闘技界の“裏事情”に野望を遮られ、全国の視聴者に存在をアピールすることも叶わなかった。大会翌日の会見で、川尻は2009年を振り返って「大人の階段を上った一年でした」と語っている。愛してやまない世界への、精一杯の皮肉だろう。
だが、大晦日のリングで発揮された川尻の実力に驚き、感銘を受けた観客も少なくなかったはずだ。川尻はDREAMの、横田はSRCのタイトル挑戦権保持者。いわば同ランクなのだが、その二人が実際に闘ってみると、予想以上に差があったのだ。川尻の強さだけは、何者にもスポイルできなかった。
横田は戦前から「(川尻は)打ち合いではなくテイクダウンの選手」と警戒していたのだが、それでも川尻は狙ったタックルをすべて成功させた。よほどの実力差がなければ、できることではない。徹底的に相手の長所を潰し、ダメージを与え続ける川尻の姿も強烈なインパクトを残した。この日、川尻が表現したのは、分かりやすい“熱い闘志”ではなく“冷たい怒り”だったのだ。それに気づいた人間にとって、この試合は大会屈指の名勝負だった。