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野望を遮られた男、川尻達也が
大晦日に見せた“冷たい怒り”。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2010/01/15 10:30

野望を遮られた男、川尻達也が大晦日に見せた“冷たい怒り”。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

開始早々からマウントポジションを取り、攻め続けて完勝を果たした川尻。一夜明けた会見では、「昨日の試合はなかなかテーマが見出せない試合だったんですが、横田選手という強い選手に勝ったのはプラスになったし、『格闘技が好きなんだ』ということを改めて確認しました」と冷静に語った

 2009年の格闘技界で、最もファンの感情移入を誘った選手は川尻達也だろう。5月にJ.Z.カルバンを下して世界トップクラスのMMAファイターであることを証明し、7月にはK-1 MAXのリングに乗り込んで魔裟斗と対戦。TKOで敗れはしたものの、格闘技熱を再び高めるために不利な闘いに挑む姿勢はファンを熱くさせずにはおかなかった。

 そして大晦日の『Dynamite!!』(さいたまスーパーアリーナ)では、青木真也の持つDREAMライト級王座への挑戦が一度は内定。日本格闘技界のオールスターが集うビッグイベントで戴冠すれば、川尻のキャリアのハイライトになるはずだった。だが、このタイトルマッチは実現することがなかった。大会の1カ月あまり前になってSRC(戦極)との対抗戦が決定し、そこに川尻と青木も出場することになったのだ。

 主力選手が対抗戦に出場するのは、ファンのニーズからいっても当然のことだった。だが、川尻の感情が収まらないのもまた当然である。しかも、カード決定が発表された時、すでに大会まで10日を切っていた。会見での川尻は、「対抗戦なんてやる気もないし、いい試合をする気もない。相手の息の根を止めるだけ」と無表情でコメント。写真撮影は拒否して退場している。

圧勝がテレビ中継されなかった理由。

 SRCライト級のトップコンテンダーである横田一則と対戦した川尻は、その強さを存分に見せつけた。トリッキーでハイスピードな打撃を持ち味とする横田のペースに、まったく惑わされることがない。絶妙のタイミングで組みつき、テイクダウンし、マウントポジションからパンチを落とす。横田が何度立ち上がっても、次の展開は同じだった。試合が進むにつれ、川尻は肩固めや腕十字にもトライ、優劣はさらに明らかなものとなっていく。結局、横田はやりたいことが何もできないまま、5分3ラウンドを終えることに。3名のジャッジは全員、川尻を支持した。

 川尻自身は、この判定勝ちに「抑え込みの時間が長い、つまらない展開になってしまった」と不満そうな表情を見せた。当日のテレビ中継では、この試合はカットされ、テロップで結果が映されただけだった。同じ展開が続いた上での判定決着は“テレビ向き”ではないという判断だろう。まして今大会は、主催者が予想した以上に判定決着が多く、進行が遅れていた。快勝した選手さえマイクを握ることを禁じられ、試合順も大会の途中で変更になっている。精神を集中すべきバックステージで、入場を急かされた選手もいたそうだ。魔裟斗の引退試合や石井慧のデビュー戦といった目玉カードを確実に放送するために、その他の選手が犠牲になったのである。

【次ページ】 何者にもスポイルできなかった“強さ”。

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