Column from SpainBACK NUMBER
バルサ、優勝へのカウント・ダウン。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2005/04/20 00:00
日曜日の深夜番組。
「セックスなんだけど。試合前と試合後、どっちがイイ?」
聞かれたのはFCバルセロナのエトー。
「人それぞれじゃない。う〜ん。試合前もいい。けど、試合後も、なんて」
レアル戦で傷をおったエトーは4月17日のバルサ対ヘタフェ戦を観客席から見守っていた。収録は数日前に行われたものだろうけど、レアルの猛追をプレッシャーと感じないのか、試合後にブラウン管から流れるカメルーン人の笑顔には余裕さえ感じる。
残り6試合で6ポイント。バルサもレアルも1歩も譲れないゲームが続くわけだが、どちらかといえばレアルはリラックスしていた。エトーはともかくとして、バルサには緊張感が漂っていた。
ヘタフェ戦前。バルサはキャプテンのプジョールとエトーといった中心選手が戦線離脱したことで、練習はプレスを2度もシャットアウトするほどの厳重体制だった。連敗はまずい。レアル戦の空気を早く断ち切りたい思いが、ひしひしとライカールトから伝わってきた。
「とてもいいゲームで満足している。チーム・ワークもメンタルも回復できた」
ヘタフェ戦後の記者会見で指揮官は、ほっと一息ついた。
しかも、試合前のウォーミング・アップから戻ってきた選手の耳にはレバンテ対レアル戦の結果(ロナウドが2ゴール)が入っていただろうから、誰もが自然と力が入っていたことだろう。ところが、何の緊迫感もなく、試合をあっさり決めたのはロナウジーニョだった。やっぱり、頼りになる。レアルとのクラシコを控えた数日前には悪性のウイルスにより胃腸炎になったロニーは、3日間寝たきりだった。体重も2kgほど落ちて、顔はげっそりしていたにもかかわらず、いまでは何でもない顔をしているから驚きだ。仲間に声をかけては士気を高めるその姿は、2年前までパリにいたあの子とは思えない。監督にアッカンベーと舌を出していた子とは別人だ。
ヘタフェ戦。ゲームを支配していてもゴールが遠い。いつか入るだろうな、という流れはあってもシュートが枠へ飛ばない。いつものバルサであり、それほど心配は無用であっても、レアルの勝利は頭の隅にある。早く安心させて欲しいと願うのが観客の心理。そこで飛び出したのが、ロナウジーニョのフリーキックだった。レアル戦に続いて2戦連続でFKゲット。ジュリの追加点が後半に決まるまでの間もバルサにピンチというピンチはなかったから、ライカールトも満面の笑みを浮かべる。
そもそも、リーグで一番シュートを受けた本数が少ないのが、バルサだ。もっとも被害を被っているレアルのGKイケル・カシージャスの約半分である。レアル、ベティス、エスパニョールがシュート被シュート数のワースト3。だからといって、この数字だけを見て弱小チームとは言い切れないけど。イケル・カシージャスが素晴らしいキーパーであることは、確かか。彼なくして、いまのレアルはありえない。ユーベのブッフォンにオファーを出そうなんて言ってる首脳陣は理解不能。たぶん、アリーゴ・サッキの好みではないという、それだけかも。
そんなわけで、バルサとレアルの首位攻防は6ポイントが保たれたままとなっている。数年前にデポルティーボが優勝に王手をかけたとき、バルサは対戦相手に勝利ボーナスを出すことを提案したことがある。頼むから、勝ってよ、と。そんな取引も空しくバルサは優勝できずに無冠に終わったが。元気なロナウジーニョがいれば、心配はなかろう。たぶん。優勝へのカウント・ダウンが始まった。