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左フックと拳銃。
~「美しい破壊王」アルゲリョの死~ 

text by

芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2009/07/11 08:00

左フックと拳銃。~「美しい破壊王」アルゲリョの死~<Number Web> photograph by Getty Images

'81年6月、王者ジム・ワットを倒し、3階級制覇を果たしたアルゲリョ。生涯成績は88戦80勝64KO8敗

人生の崖っぷちから幾たびも這い上がってきたのだが……。

 破滅に瀕すると、アルゲリョはリングに戻った。もはや楽な戦いは望めなかったが、それでも実人生の苦しみに比べればまだしも楽だったにちがいない。実をいうと、アルゲリョの父親は自殺未遂常習者だった。古井戸に飛び込んで死に損ない、救援のロープが下ろされるとそのロープで首を吊って引き揚げさせ、それでも死に切れなかった、という嘘のような実話が残っている。

 アルゲリョもその血を引いていたのだろうか。病苦や金銭トラブルなど、引退後の彼にはとかくの噂がつきまとった。だが彼は、いつの間にかサンディニスタ政権と和解していた。北京五輪では代表選手団の旗手をつとめ、昨年秋には首都マナグアの市長に就任したほどだった。不思議な男だ、と私は感心していた。拳銃自殺のニュースが報じられたのはその矢先のことだ。今度はどんな苦痛を抱えていたのか。謎を残したまま「美しい破壊王」は57歳で世を去ってしまった。

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