Column from EnglandBACK NUMBER
問題児ガッザが地球を救う!? ポール・ガスコイン
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/03/14 00:00
デイビッド・ベッカムの“銀河系(ギャラクシー)”行きの話題も、一段落した感のあるイングランド。今度は、「宇宙人から人類を守る」という奇妙な任務を背負った、もう1人の元代表スターが世間の注目を集めている。
ガッザことポール・ガスコインが、SF映画に出演することになったのだ。
ガスコインが最後にメディアで脚光を浴びたのは、一昨年の12月。ケッタリング・タウン(4部リーグの下のカンファレンス所属)での監督挑戦が、39日間という超短命に終わってしまった時のことだった。
今回は芸能界への挑戦で注目を集めているわけだが、彼がショービズ界へチャレンジするのは初めてではない。3年前には、BBCテレビで好評の“Strictly Come Dancing”(有名人とプロのペアによる社交ダンス・コンテスト番組)のアイス・ダンス版へ出演しかけたこともある。しかし番組最大の呼び物として期待されながらも、ガスコインはリハーサル中に首を負傷。デイビッド・シーマン(元アーセナル/イングランド代表GK)にピンチヒッターを依頼する羽目になっている(ちなみにシーマンは見事優勝)。
だが、「自分は常に新しい刺激と変化を求めているんだ」と語るガスコインは、あきらめてはいなかった。来年の公開が予定されている『FINAL RUN』(仮題)は、エイリアンに侵略された近未来の地球を舞台とする、アクション・ホラー映画。ジェームズ・ブランド監督の言葉を借りれば、「『エイリアン』と『ブラックホーク・ダウン』を足して2で割ったような作品」ということになる。ガスコインが演じる主人公は、生き残った人類のリーダー格という設定で、彼は映画のプロデューサーも兼任することになった。
イングランドには、役者として名を成した元サッカー選手として、ヴィニー・ジョーンズ(『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』、『60セカンズ』などに出演)がいる。1980年代、ピッチ上で悪童ぶりを披露しあったライバルの成功は、ガスコインにとっても大きな心の支えだという。
「この1本だけで終わりたくはない。ヴィニーの例を見れば、役者転向も悪い選択ではなさそうだし(笑)。自分にとっても、更なるチャンスにつながってくれればと思っている」
この夏に始まる撮影に備え、ガスコインはまず、SAS(英空軍特殊部隊)でマシンガンの扱い方などの手解きを受けることになる。長年の暴飲がたたり40歳とは思えないほど老けこんでいるが、簡単なアクション・シーン程度はこなしてくれるだろう。問題は、その後に待ち構えている台詞の暗記と演技だ。
ガスコインは、2002年のW杯でテレビのゲスト解説者として登場。カメラの前での落ち着きのなさと、喋りの下手さを視聴者に強烈に印象付けてしまった(ここさえうまく乗り切っていれば、テレビ解説者や評論家という道も開けていたはずだ)。おまけにガスコインには、観る者を圧倒するジョーンズのような凄みも存在感もない。
ガスコイン本人は、
「私が演じるキャラクターは、途中で道を誤りながらも、最終的にはヒーローでありたいと願っている。その点自分は、キャリアの中で、実際に何度も道を誤ってきたからね(笑)。演技をするのが楽しみだよ」
と自信を覗かせるが、その自虐的なジョークを、素直に笑えなかった人も多いはずだ。
全盛期には、「イングランド史上、最も才能に恵まれたフットボーラー」とまで言われた男は、第2のキャリアを求めて迷走を続けている。果たしてガスコインは、3年前に銀盤(アイス・ダンス)で掴み損ねたチャンスを、銀幕(スクリーン)の中で手にすることができるのか?今はただ、デビュー作の『FINAL RUN』が、文字通りの“Final(最終作品)”にならないことを祈るだけだ。