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かつての蜜月は過去のもの。ロナウジーニョの移籍騒動。 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byTomohiko Suzui

posted2008/04/24 00:00

かつての蜜月は過去のもの。ロナウジーニョの移籍騒動。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 「危機?今のバルサは危機に瀕したりはしていない。それは5年前の話だ」

 ここ数カ月、勝つことを忘れ、魅せるサッカーを忘れたバルセロナを憂う問いに、シャビはこう答えた。

 5年前というのは4シーズン無冠を続けていた頃。確かに、不様な試合をただ繰り返していたバルサは全く先が見えない状態にあり、すわ2部降格かと思われた時期さえあった。

 そこから僅か数年でバルサは欧州の頂点に立つに至ったわけだが、その一番の功労者は、何といってもロナウジーニョだろう。クラブの経営状態を好転させたラポルタ会長以下役員の手腕も大きかったし、そもそもライカールトのチーム作りが成功しなければ、タイトル獲得など不可能だった。しかし、バルサのイメージを変え、本当の意味で危機から救い出したのはロナウジーニョだ。彼の入団から1年経った後、コーチの1人に言われたことがある。ロナウジーニョはピッチ上の活躍もさることながら、周りを愉快な気持ちにさせることで、チームを活性化したんだと。

 そのロナウジーニョとミランが移籍条件で合意に達したと、先日イタリア発で報じられた。

 これまでだったら洟も引っかけないニュースである。ミランやチェルシーがロナウジーニョを欲しているという話を聞かなかった年はないし、たとえロナウジーニョ本人が望んでも、バルサとの契約は2010年までなのだから移籍などあり得ない──と。だが、今年は違う。おそらく来月早々にも、今度はスペイン発で、「クラブ同士も合意」というひとことを付け加えて、移籍決定が報じられるだろう。バルサがロナウジーニョを見限ったから。

 三下り半は3月中旬、ドクターの所見という形で公にされた。脚に違和感を訴えるロナウジーニョを診察した結果、実際は恥骨炎の他、大腿部に浮腫があったにも拘わらず、クラブは「腱の故障も筋肉の故障も見つからない」、即ちケガはなしと発表したのだ。

 一方的にサボリの印象を植え付けられたロナウジーニョはたまらない。早速移籍先を探し始め、かねてラブコールをもらっていたミランに接近し、話をつけた。それが先の一報である。

 両者の関係は、少なくとも1年少々前までは蜜月状態にあった。それがこんなことになってしまったのは、他でもないロナウジーニョのせいだ。彼にとって今シーズンは昨季失った信用を取り戻すチャンスであり、名誉挽回は義務だった。それなのに、守備を強いられるようになったのが気に入らないのか、思い通りに動かない身体に嫌気が差したのか、開幕時のやる気を尻すぼまりに感じさせなくなり、どこどこが痛いと試合を休むようになった挙げ句、本当に負傷。そのケガの原因の一端は、体調に気を配らない、プロらしからぬ乱れた生活を送っているところにあるとされている。プライベートの管理を怠ったクラブやライカールトの甘さに責任を求める声もあるけれど、ロナウジーニョはもう28歳。子供じゃない。

 かくしてロナウジーニョの移籍は不可避となり、現在バルサは売却額の吊り上げに腐心しているところだが、ミランが提示する2000万ユーロ(約32億円)を呑むしかないのが実情だ。一定の条件下で契約破棄を認めるFIFAの移籍規約をロナウジーニョが行使したら、懐に入ってくる額は1600万まで減ってしまうし、2500万出すというインテルや、それ以上というマンチェスター・シティにはロナウジーニョが興味を示さない。ヘソを曲げられ居残られたりした暁には、来季も年俸860万ユーロを払わねばならなくなる。

 問題は、5年前PSGから2700万で買った選手を、名声高まった今、マイナス700万で売ってソシオが納得するのか、ということ。10年前、1200万で買ったロナウドを1年後2400万で売った当時の役員会は、それでも弾劾されてしまった。

 カタルーニャ人はケチで通っているのだ。

ロナウジーニョ

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