プロ野球偏愛月報BACK NUMBER

“西武ショック”でドラフトはどう変わる!? 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

PROFILE

posted2007/03/20 00:00

 木村雄太(東京ガス)と清水勝仁(早大)に対して西武球団からルール違反の裏金を渡していたことが発覚し、今年から採用されるドラフトのやり方が白紙に戻った。当初、ファンや高野連(高校野球連盟)などが反対していた希望枠を従来通り1つ残し、高校生と大学生&社会人を分離して行う分離ドラフトも従来通り。つまり、巨人やソフトバンクに都合のいい'05、'06年のドラフトが今後も採用されることがほぼ決まっていて、その矢先に裏金授受の問題が起こった。プロ野球にとってはファンから愛想を尽かされる危険性を孕んだ重大な事件だが、ドラフトの将来という点から考えれば、この事件は“神風”と表現してもいい。

 ファンを無視してプロ野球の興行はできないので、裏金の温床とも言われ、多くのファンが反発している希望枠を今後も採用していくことは事実上不可能。そこで巨人が提案したのが「クロス・ウエーバー」方式のドラフト。現行制度との違いを紹介しよう。

◇希望枠

現行制度=大学生と社会人に限り1球団に1人、ドラフトとは別に獲得できる。

巨人提案=撤廃。

◇高校生ドラフト

現行制度=1巡目は入札(競合したら抽選)、3巡目以降は下位球団からウエーバー。

巨人提案=入札なし。上位球団からの逆ウエーバー。

◇大学生&社会人ドラフト

現行制度=希望枠あり。3巡目以降は下位球団からのウエーバー。

巨人提案=希望枠なし。下位球団からのウエーバー指名。

◇FA期間

現行制度=国内、国外移籍とも9年。

巨人提案=国内5〜6年、国外9年。

◇補償金、人的補償

現行制度=補償金は年俸の1.2倍、人的補償の場合は年俸の0.8倍とプロテクト(保護)外の選手。

巨人提案=撤廃

 皆さんはこれをどう読み解くだろうか。僕は巨人を「転んでもただでは起きない」したたかな球団だと思った。そして、欲望が非常にわかりやすい球団だとも。

 弱い球団は即戦力がほしいはずだから大学生&社会人は下位球団から指名し、その代わり上位球団は高校生の指名を優先するという内容。今季、巨人は優勝する自信があるのだろう。だから日本一になって超高校級スラッガー、中田翔(大阪桐蔭高)を1巡目で指名するという狙い。

 また、強い球団は3、4年に一度くらい高校生をトップ指名で獲得することが多い。逆に弱い球団は即戦力志向が仇になって新陳代謝が遅れ、低迷を長引かせることが多い。巨人はそういうことに、ようやく気づいたのだろう。

 また、FA期間の国内5〜6年は、他球団の主力選手をできるだけ若いうちから獲得しようという魂胆。国外移籍の9年据え置きには笑ってしまった(こんな案に同調するのだから広島カープは市民球団の名が泣く)。補償金と人的補償の撤廃も巨人に都合がいい。

 NPB(プロ野球機構)はこの案を採用するつもりらしいが、巨人やソフトバンクだけに都合のいいドラフトを採用してしまったらファンは今度こそ愛想を尽かす。ファンが望んでいるのは日本の野球が世界一になることである。一部の球団だけに逸材を放り込むドラフトでは、日本のプロ野球は世界一になれない。それに、一部の球団に過剰に逸材を入団させたら、そこからはみ出る選手が何人も出てしまう。そんな人材を無駄遣いする余裕は、今の野球界にはない。

プロ野球の前後の記事

ページトップ