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フリーダイバー・篠宮龍三が見た、水深107mの“グラン・ブルー”。~脅威の日本新記録達成!~ 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byIkuko Noda

posted2009/12/16 10:30

フリーダイバー・篠宮龍三が見た、水深107mの“グラン・ブルー”。~脅威の日本新記録達成!~<Number Web> photograph by Ikuko Noda

日本新記録107メートルを樹立した瞬間。日本人で初めてジャック・マイヨールを超えた男となった

 日本から遠く離れたカリブ海で、日本のスポーツ史に刻まれるべき新たな記録が生まれた。水深107メートル。人間の力だけで漆黒の海中へと潜っていく“フリーダイビング”という種目の第一人者である、篠宮龍三の驚異の記録だ。
Number Webでブログを掲載しているこのトップアスリートの、大記録へと至る足跡と、その先の未来をひもといてみる。

 サッカーW杯の組み合わせ抽選会とJリーグの優勝の行方、それに男子ゴルフの賞金王争いなどに関心が集まっていた12月の第1週に、ひっそりと、しかし特筆すべき記録を叩き出したアスリートがいた。プロフリーダイバーの篠宮龍三である。バハマで開かれていたフリーダイビングの世界選手権に出場していた33歳の彼は、大会期間中に水深107メートルの日本新記録を樹立したのだった。

 フリーダイビングとは、タンクなどの呼吸機材を使わずに、ひと息でどれだけ潜れるのかを競うスポーツだ。ラテン語で「息こらえ」を意味する「APNEA(アプネア)」とも呼ばれ、ヨーロッパでは半世紀以上も前から競技会が行なわれている。

『グラン・ブルー』に魅了されてフリーダイビングの世界へ。

 この競技を世界に知らしめたのは、フランス人ダイバーのジャック・マイヨールである。人類史上初めて100メートルに到達した伝説のフリーダイバーだ。リュック・ベッソンが監督を務め、ジャン・レノが出演した自伝的映画『グラン・ブルー』(1988)は若者に絶大な支持を集め、母国フランスでは『グラン・ブルー・ジェネレーション』という言葉が生まれたほどである。

 篠宮も『ジェネレーション』のひとりだ。伝説の映画をきっかけとした小さな偶然が、彼をフリーダイビングへ誘い込むことになる。

「グラン・ブルーを観たことでダイビングに興味を持つようになり、大学のキャンパスの近くにあるショップへ行くようになりました。そのオーナーがジャックさんの古い知り合いで、トレーニングのパートナーをしていた人だったんです。オーナーから話を聞きたくて、学校帰りにショップへ立ち寄っているうちに、どんどんはまっていきました。本当にラッキーな出会いでしたね」

 大学卒業後は会社員となるが、27歳でプロ転向を決意する。ここでも、きっかけを与えてくれたのはジャックだった。

「1970年に、ジャックさんは伊豆の海で当時世界最高記録の76メートルを達成しているんです。いつかは伊豆で日本記録として76メートルをフォローしたいと思っていました。2003年にその記録挑戦に成功し、当時の世界歴代9位に入ったんです。世界の頂点が見えてきた! もうこれは会社を辞めて世界一を目ざすしかないと、思い切って会社を辞めたんです」

【次ページ】 「水のなかに潜っているほうが、僕は楽なんです」

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