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魔裟斗「あいつのパンチは当たらないよ。」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
posted2004/12/02 00:00
「オレにしてみれば、なんで盛り上がっているのかわからない」
抑えた声のトーンにけだるい態度。魔裟斗はぐるりと首をまわした。
「だから会見でも言ったでしょ。年末は楽な試合がしたかっただけ。けど、一般の人にとっては面白いんじゃないかな。去年のボブ・サップと曙みたいにさ」
大晦日に控えた山本“KID”徳郁との大一番、つまるところ魔裟斗にとってみればK-1における実績や格のちがいゆえ、この対戦は冷静に考えればミスマッチなんだよ、と言いたいらしい。玄人目からちゃんと見たら、結果はおのずとわかるはず。だから騒ぐこともない。ただ、ビジュアル的にはわかりやすいんじゃないの、と。
10月13日。KIDから突然対戦要求のあったとき魔裟斗はテレビ解説に駆り出されており、リングの上にいるKIDをうすら笑いを浮かべ眺めていた。驚きというよりも、なに言ってんのコイツ、といった具合で。実はこの対戦要求がある以前、魔裟斗は関係者から「ひょっとしたら年末、KID戦があるかもしれない」と告げられていたという。つまり、予想範囲内の出来事だったというわけだ。
しかし、魔裟斗は言う。「それでもKIDは絶対に受けないと思っていた。だってオレに勝てるわけないじゃん。まったくの予想外」。さらに「本当、無謀だよね」とつけ加えた。
魔裟斗にいくらKIDのことについて尋ねてみても一事が万事この調子。暖簾に腕押しというのか、モチベーションのありどころがわからない。KIDを他のキックボクサーと比べどのぐらいのレベルにある選手かとしつこく訊いてみても、「まあまあ」としか答えようとはしない。KIDはK-1ルールの試合を1戦しかしておらず、破格ではあるがルーキー同然。今年7月のワールドMAX世界大会決勝でブアカーオ・ポー.プラムックに敗退したものの日本ではナンバー1の実力があるキング魔裟斗にしてみれば、格下の相手、ましてや総合格闘技の選手であるKIDは恐れるに足りぬ存在なのだろう。
しかし、魔裟斗はことあるごとに「どんな相手でも油断はしない。いくら試合を有利に進めていても一発をもらったらお終いだから」と語ってきた。この本質にある注意力と謙虚さが、魔裟斗を今の地位に引き上げているわけだが、それはやはりKIDに対しても当てはまるはずだ。だが、魔裟斗は断言する。
「あのレベルのパンチは当たらないよ。当たったとしても見えているパンチは効かないし、それにKIDの体重は65㎏でしょ?」
(以下、Number616号へ)