サハラマラソン挑戦記BACK NUMBER
360度何も無い砂漠で迷子です……。
過酷なコースでリタイアを夢見る。
text by
松山貴史Takashi Matsuyama
photograph byTakashi Matsuyama
posted2011/04/29 08:00
ひどい砂塵を防ぐためにマスクを着用
走りながら「f**k!」と叫び続けるフランス人選手。
膝が痛すぎて、最初から最後部スタート。
昨日で8時間なら今日は10時間越えだな……朝の説明時に、昨日より2時間制限時間を延ばすことが発表された。これは、昨日より厳しいコースだと言っているということに他ならない。
ただ歩くだけだと退屈なので、自分と同じスピードくらいの外人選手と異文化交流。フランス人のジーンさんと話す。彼も初参加だったらしい。
「こんなに厳しいレースと知っていたら、申し込まなかった。こんなことなら妻とパリマラソンに出とけばよかった」
大分意訳したが、3センテンスぐらいで10回くらいf**kと言っていた。よっぽど辛いのだろう。自分もパリマラソンに出とけば良かった。
ジーンさんと別れると、日本人選手と遭遇。この方は小野田さん。トライアスロンが好きで、アイアンマン・ドイツも完走したことがあるらしい。流石だ。アイアンマン・ドイツを最終目標にしていたら、たまたまその大会時に同じホテルに泊まった方からサハラのことを聞かされ、今回エントリーに踏み切ったそうだ。類は友を呼ぶというやつか? 話しながら歩くと凄く楽で、気付けばCP1に着いていた。
この調子と思い、休憩なしでCP2を目指す。
CP1までは結構険しい山もあったが、CP2へ向かう道はなかなか歩きやすかった。調子に乗ってスピードを少し上げると、膝に激痛が走る。歩くのすらままならない。休み休み進むことにした。再び、リタイアが頭を過る。
もしリタイアしたら……あれこれカッコイイ言い訳を考える。
もしリタイアしたらどうなるかを考える。
友人には「完走出来なかったら、そのままモロッコに残り、西サハラを独立させて第二のゲバラになって帰ってくる」などと大見得切ってしまった手前帰れない。NumberWebにもなんて書こうか。「やはりサハラマラソンは世界一です。ポッと出のルーキーが太刀打ちできるような代物ではありませんでした。来年また出直します」みたいな形で結ぼう。そうすれば編集部のWさんも「美談になるからそれでいこう!」と太鼓判を押してくれるかもしれない。いっそのこと、サソリに刺されたりした方が手っ取り早いんじゃないか……こんなことすら頭に浮かんだが、今朝来た応援メールや、応援して下さっているひとたち、そして物資の支援をしてくれた企業の方々のことを考えると、とてもじゃないが出来ない。とにかく歩くことにした。
今日乗り切れば何とかなると、根拠のないことを呟きながら、ひたすら進む。3時間後CP2到着。水を受け取った後は、発煙筒を鞄の奥底に入れ、簡単に取れないようにする。発煙筒を探すくらいなら、一歩進んだ方が楽だと思わせるためである。休憩もそこそこにCP3を目指す。ここへ来て再び砂丘のお出ましだ。前には進まないが、膝には優しい。とにかくプラスのことしか考えずに歩く。約7kmを2時間半かけて到着。
ビバークまで残り7kmだ! と意気揚々と歩きだしたが、この先の道がイマイチよくわからない。気のせいか、遠くの崖の中腹に赤い目印岩があるように感じる……良く見ると、崖に無数の人がいるではないか。なんてこった! ここまでずっと我慢してきたが、完全にマラソンの域を超えているじゃないか! 事務局もよくこんなコースをみつけたものだ。仕方ないので、登る。
膝が痛い。ゆっくり登り、頂上まで来ると、かなり高い。落ちればゲームオーバーだ。コンティニューは不可。
クレジットカードの付帯保険で何とかできるレベルの大会じゃない。山でもアウトだと思っていたが、これは完全に崖じゃないか。今度は恐る恐る下る。頂上で思ったのだが、大きく迂回すれば登らなくても済んだのではないのか。しかし、今となっては後の祭りだ。後悔は忘れて進んでいくと、案外早くビバークが見えた。事務局もあの崖を考慮してくれたのだな、とルンルン気分で歩くと、30分後、そこがベルベル人のテントだと分かる。なんてこった。コーラを10ユーロで売ると言ってくれたが、カードしかもっていない。残念だ。
ベルベル人のテントを過ぎるとまたしても砂丘が! メインディッシュは崖じゃなかったのか……このレースが世界一過酷というのがこの時ようやく納得できた。大きい砂の山をいくつも乗り越えやっとビバークが見えた。ゴール付近で眞守真輝君と遭遇し、一緒にゴール。タイムは9:56:13、時速3.82km。日に日に時速が下がっている。