オフサイド・トリップBACK NUMBER
カントナの自分探しは終わるのか?
復活したNYコスモスに渦巻く謎。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAP/AFLO
posted2011/03/27 08:00
なぜか……3月上旬にシンガポールで行われたニューヨーク・コスモスのプレス・カンファレンス。ペレとカントナは、2014年からのチーム始動を語ったという
スタジアムもなく、選手もいない。計画だけが先走る。
ところがこの話、内実を知れば知るほど様々な謎が湧き上がってくる。
まず現在のコスモスは一つのクラブとしての組織体があるだけで、実際のチームもなければ、当然スタジアムもない。また2013年に予定されているMLSのエクスパンション(現行のアメリカのプロサッカーリーグによる、フランチャイズ拡大)入りを目指すとされているが、この点に関しても、解決しなければならない問題はあまりにも多い。
それに、MLSのフランチャイズ拡大は、綿密な長期計画の元に練られてきたもので、名乗りを上げたからといっておいそれと実現するものではない。ニューヨーク地区に限定しても、フランチャイズ拡大の件では、MLBのニューヨーク・メッツのオーナーが以前から関心を示してきた。
本気でMLS入りを目指すのであれば、身内を斬る行為も必要になる。コスモスはナイキやアンブロとタッグを組んでいるが、MLSが独占契約を結んでいるのはアディダス。公式戦やPR活動では、アディダス以外のロゴを提示することは一切認められていない。
英国人実業家集団による投機的プロジェクトとの見方も。
しかし、これらの要因以上にひっかかるのは、コスモスを復活させようという今回のプロジェクトの「質」である。
むろんクラブ経営は、損得勘定抜きで清く正しく行われるべきだなどと主張するつもりはない。いかに志が高くとも一つのビジネスモデルとして成立しなければ、早晩立ち行かなくなってしまう。だがコスモスの場合は、あまりにも金の臭いが強すぎるからだ。
このプロジェクトの仕掛け人で、会長兼CEOを務めるのはイギリス人のポール・ケムズレー。彼はかつてトットナム・ホットスパーの副会長を務めたこともある実業家で、カントナ起用のキーマンにもなった。ただし彼は、典型的な不動産ブローカーとして、何度となくイギリスのメディアに取り上げられた過去も持っている。
副会長を務めるのは、同じくイギリス出身の実業家であるテリー・バーン。もともとはチェルシーのメディカルスタッフとしてサッカーに関わり始めた人物で、その後、様々な事業を手がけるようになった。日本では知名度こそ低いが、サッカー関係者の間では、ベッカムのパーソナルマネージャーを10年以上も務めてきたことでも名高い。結果、コスモス関連では、いずれベッカムの名前が浮上してくるのではないかという奇っ怪な説さえ浮かんでは消えたりしている。
ちなみに役員会には、リック・パリー(リバプールの元CEO)等も名を連ねているが、このような人事構成を踏まえて考えると、コスモスの復活なるものは、名門クラブを復活させようという純粋な試みというよりは、サッカービジネスに携わるイギリスの実業家たちが立ち上げた、投機的なプロジェクトに見えてしまうのである。