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「嫌じゃないんです、近くにいることが」新井良太が語る兄、監督、そして“血縁”への疑念と信念「…そこから“リアル兄弟”になった気がしました」《連載「鼓動」第3回》
もう20年も前のことだ。まだスポーツ紙の記者だった頃、ひとりの青年がプロ野球に入ってきた。私が担当していた球団には毎年、何人かの新人選手が入ってきたが、彼が他の選手たちと異なっていたのは、すでに同じ世界で名の通った兄を持っていたことだった。だから何かにつけて比較され、自らの名前ではなく、「弟」と呼ばれることも少なくなかった。たとえ誰であろうと自分以外の全員が競争相手で、自らの名を売ることが成功とされる世界である。私はさぞかし窮屈だろうと見ていた。だが、彼は抗おうとしなかった。記者たちが繰り返し兄について質問しても嫌な顔をしなかった。私もまた兄を持つ弟だったからこそ不思議だった。彼はなぜ、「弟」という軛から逃れようとしないのか。それほど人の内に流れる血というものには引力があるものだろうか。当時からそんな疑問を抱き続けてきた。
広島カープの春季キャンプが行われている宮崎へ向かったのは、新井良太に会うためだった。2月の淡い陽射しが照らすグラウンドに着くと、彼は打撃ケージのすぐ後ろに立っていた。そこからバッティング練習をする選手たちに視線を注いでいた。今年から一軍の打撃コーチになった。当然ながら同じベンチにはこのチームの指揮官である新井貴浩がいる。40を過ぎた彼は兄の隣で同じ勝敗を背負って戦うことになったのだ。
夕暮れ時、仕事を終えた良太がベンチ裏のがらんとした部屋に入ってきた。テーブルの向かいに座った彼は赤いウインドブレーカーを着ていた。私が知っているのは青や黄色と黒のシャツに身を包んでいた姿だが、なぜか赤が馴染んで見えた。そして相変わらず、強い鼻筋と笑ったときの口角の上がり具合が兄とそっくりだった。
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