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「自分たちは変われるだろうか」新井貴浩と2025年広島カープの第一歩…早朝のマツダスタジアムで見た“菊池涼介の覚悟”とは?《鈴木忠平・新連載「鼓動」スタート》

未明まで降り続いていた雨はなんとか上がったものの、3月28日の広島は冷え込んでいた。平和記念公園の桜も三分咲きのままじっとしているしかない。そんな寒い夜、カープは開幕ゲームを戦い、そして敗れた。本拠地を埋めた3万を超える観衆にひとつの得点も見せることができなかった。
ゲームセットから数分後、新井貴浩がバックヤードの通路を歩いてきた。ホームゲームの後はベンチ裏の記者会見室で立ったまま質疑に応じる。敗れた監督の背中を天井に並んだ蛍光灯が無機質に照らしていた。
「まだ始まったばかりだから、1試合だけでどうこう言うことはないよ」
「143分の1です」
新井は開幕日の零封負けについて問われ、そう答えた。監督になって3年目、この仕事の大部分が耐えることであり、外部にその痛みを見せぬことだと分かっている。それでもこの夜の新井は表情も口調も、いつになく硬質であるように見えた。

冷静に考えれば、阪神タイガースの開幕投手を務めた村上頌樹はほとんど完璧だった。7割は失敗することが前提のバッターたちはこんなとき、潔く脱帽して明日に向かうしかない。おそらくメディアやファンも分かっている。それでも無得点だったことがフォーカスされ、それを嘆く空気があるのはカープを取り巻く人々の脳裏に、昨シーズンの衝撃的な結末が刻まれているからだろう。そこからの変化を、新井のチームに期待しているからだろう。
「9月になって、さあ行くぞと号令をかけたときに…」
前年のカープは歴史的な失速を経験した。8月までは下馬評を覆す戦いで首位に立っていたが、ペナントレースの行方を決める9月になった途端、何かが尽き果ててしまったように25試合で20敗を喫し、Bクラスへの坂を転げ落ちた。新井はその光景を前に、何が足りなかったのか、自問したという。
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