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「試合直前には恐怖を感じていた。でも…」佐藤駿がボストンで迎えた“覚醒の瞬間”と「昌磨さんの言葉」で手に入れた王者の思考《フィギュアスケート世界選手権の深層》

「試合1カ月前からずっと緊張していましたが、その緊張感の中で絶対にやってやるという気持ちになれてベストの演技を出せました。この試合を通して成長して、一皮むけたなと感じています」 
 初出場となった世界選手権(米国・ボストン、3月26~30日)で、佐藤駿はショート5位、フリー6位で総合6位となり、柔らかい笑みを見せた。そのわずか3カ月前の全日本選手権では相次ぐミスで7位に沈み、演技後は過呼吸で倒れたほどの失意の底から、世界のトップグループへと蘇ったのだ。そのメンタルの成長について、現地ボストンでも取材をした野口美惠が綴る。<NumberPREMIERオリジナル記事>

 今シーズンの前半、佐藤は絶好調だった。得点源である4回転ルッツは試合で9割近い成功率を誇り、GPファイナルも銅メダル。世界屈指のジャンパーとしての自信にあふれていた。ところがその2週間後の全日本選手権では、試合当日になって4回転ルッツが「迷子」になった。

「『あれ、ルッツってどうやって跳ぶんだっけ?』となってしまって。ただただ不安なまま試合本番を迎えてしまいました」

 ショートでは4回転ルッツの回転軸が斜めになり転倒。フリーは4回転ルッツだけでなくジャンプ全体が崩れ、呆然とした表情で演技を終えた。シーズン前半の好成績から世界選手権代表に選ばれたものの、発表翌朝の囲み取材ではこう話した。

「フリーの前に逃げたいほどの恐怖心があって、そこから解放された安心感やいろいろな感情で倒れてしまいました。ここぞ、というところで決めきる力不足を改めて痛感しました」

photograph by Asami Enomoto
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佐藤「昌磨さんのインタビューを聞いていると…」

 そんな佐藤が改めてインタビューに応じてくれたのは、年が明けた1月4日だった。気持ちが落ち着き、全日本選手権でのミスや緊張の原因について振り返ってもらったが、その時口からこぼれたのは、こんな言葉だった。

「今季の全日本選手権は、自分の中でも『優勝が目標』と言い続けてきていましたし、今まで以上に優勝したい気持ちが強かったです。誰に勝つとかではなく、自分自身と向き合ってはいたのですが、試合前に4回転ルッツが不調になったときに、『試合に来るまでの練習があんなに良かったのに、なんで今?』と、急に不安になってしまいました」

 普段は優勝宣言しないタイプだが、今季に限っては「優勝が目標」と何度も言い、シーズン前半も順位にこだわってきた。そのことが、見えないプレッシャーとなっていたと感じた佐藤。世界選手権へどんな気持ちで向かっていけばいいのか、自己分析をした。

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