#770
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「鮨屋のカウンターは僕にはまだ無理です」イチローが語る「食」の品格…牛タン、チーズピザ、そして「匂いが消えない限りムリ」な野菜《インタビュー/2011年》
2025/03/18

食べる。ヒトにとって、もっとも根源的かつ楽しみな行為である。とりわけ第一線で戦うアスリートにとってその大切さは言うまでもない。37歳になった驚異のヒットマンが、独特な食へのスタンスを語った。(初出:Number770号 イチロー「食と野球人生と」 NumberPLUS「イチローのすべて」にも掲載)
オフのイチローの食卓は、神戸にある。
彼は毎晩、その食卓で食事をとる。このオフに関しては、神戸にいながらそこで食事をとらなかったのは、年末までに一晩だけ。あとは必ず、この店の暖簾をくぐっている。
『牛や たん平』。
イチローにとって、あまりにも大切な神戸での食卓である。
「まず、これだけ僕と相性の合うお店はありません。そして、あれだけのレバ刺しとタン刺しは、他ではまず食べられない。最初に大盛りのレバ刺し、次にタン刺し、それからタンの石焼き、途中にサラダが入って、そのあとにタンのタタキか、熟成したタンのステーキ……そこだけがときどき変わって、最後にご飯ものでスープという順番です」
たん平の味には、イチローならずとも唸りたくなる。新鮮だからこそシャクッとした歯触りのレバ刺しは、舌にまとわりつくほど濃厚で、血の匂いをまったく感じさせない。タンの刺身はトロッと舌の上でとろけながら、心地よく残る噛み応えを楽しめる。熱々に熱した石の上で焼くタン焼きは、透けて見えるほどに薄くスライスしたタンをサッと炙ると、一瞬で香ばしく焼き上がる。これなら何日でも続けて食べられると思う味だ。しかし、だからと言ってオフの間、神戸にいるときには必ず同じものを食べ続けることに対して、イチローの中に抵抗感はないのだろうか。
「今さら何を言ってるの? ただ、ずーっと同じがいいという領域に行きつくだけの料理と空間が一つでもあるってすごいことだと思うけどね。同じでも満足できるようになるまでに、それなりの時間が必要だしね」

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photograph by Naoya Sanuki