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「野球のために命を削る覚悟がある」王貞治が包み込んだ“背番号51”の葛藤と「5度のバント」…イチローが感じた「王監督の白さ」とは何か?《Wインタビュー/2010年》

突然、喧噪から切り離されて、王貞治とイチローは二人っきりになった。
日の丸が、ごく限られた空間を作り出す。
歓喜の渦から日の丸が二人を覆い隠してくれたおかげで、イチローは、王の言葉を耳元でハッキリと聞くことができた。
「ありがとう、君のおかげだ」
2006年3月20日。第1回WBCの決勝戦が終わった直後のことだった。世界一を勝ち取って日の丸を手にしたままのイチローが、王のもとへ歩み寄った。その瞬間、風が舞い、日の丸がふわっと二人を包み込んだ。王とイチローは、二人っきりの空間を分かち合うことを許されたのだ。ほんの5秒間の奇跡を、王はこう振り返る。
「あれこそ自然なんですよ。自然に両者の思いが表れたんです。ずっと一緒にやってきて、最後の最後で自然にね、ああいうことができた。彼はスタートからあの場面まで、チームを引っ張ってくれました。同じユニフォームを着ていても、監督というのは、選手の中に入り込めない部分があるんです。でも、彼が選手たちの先頭に立って、引っ張ってくれた。だから、ホントにありがとうという素直な気持ちがね、自然に出たんだと思います」

一方、王の感謝の言葉を耳にしたイチローは、すべてが報われた気がしたのだと言った。
「あれは……運命のイタズラでしょうね。だって王監督とあんなふうに日の丸に包まれるなんて絵は、できすぎです。監督は別格なんです。選手としてのすごさだけではなく、圧倒的な人間性が加味されることによって、王監督という存在は誰よりも特別になるんです。あのときはそこにたまたま僕がいたけど、本来、見合うわけがないんです」

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