柔らかなボールタッチから繰り出される妙技は敵を翻弄し、プロの目利きすら手玉に取った。今もピッチでサッカーの楽しさを体現する天才MFがデビュー1年目に見せた大器の片鱗を回想する。(初出:Number798号[驚異のルーキー見参]小野伸二 見る者さえ欺く天賦の才。)
'98 年、オファーを出したと言われているJリーグの13クラブの中で、小野伸二を手に入れたのは、最有力とされていた清水エスパルスではなく、浦和レッズだった。
現在、浦和レッズでスカウト担当部長を務める宮崎義正は、その当時スカウトとして小野伸二の獲得に奔走した。
「高1の時の彼は、それほど印象に残っていません。エクアドルでのU─17世界選手権に出場していますが、あの大会では高原(直泰)や1年上の山崎(光太郎)の方が目立っていました。でも、高2になってからは、確かに、とんでもなくすごかった」
静岡県選抜の試合だった。伸二に向けて1本のパスがくる。彼はDFを背負いながらトラップした。高原が左サイドにいて、高原へのパスコースは空いていた。ボールを受けた身体の向きを考えても、その選択で間違いなかった。しかし、伸二は左足のアウトサイドを使って、それもノールックで、右サイドから長い距離を駆け上がって突然最前線に現れた、清水商のチームメイト平川忠亮にポンっとパスを出し、そのボールを平川が決めた。
観客席で見ていた宮崎は唖然として、周りにいた他クラブのスカウトたちに確認した。
「今のパス、平川に出すってわかった?」
全員が同じ答えだった。
「高原に出すと思った」
普通の選手とは空間認識能力が違うのだ、と宮崎は言う。通常、目の前に相手選手がいる場合、サッカー選手というのは視野の中で認識できるスペースを探して、そこにパスを出そうとする。
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photograph by Atsushi Kondo