駐留米軍から手ほどきを受ける以前から、この島のボーラーたちは独自の文化を育んできた。彼らが積み上げてきた“バスケ王国”の歴史に今、新たな1ページが加えられようとしている。
海沿いの屋外バスケットコート。そこで向かい合う若い男と、小さな男の子――。
「まったく内容を知らされていなかったので、冒頭のシーンで、やられた、って感じでしたね……」
そう振り返るのは、沖縄のバスケットボール情報誌『OUTNUMBER』の創設者である金谷康平だ。
昨年末、公開され、世界的大ヒットを記録した『THE FIRST SLAM DUNK』のオープニングは、沖縄沿岸部を思わせるストリートバスケットコートで、年が離れた兄弟が「1on1」をするシーンから始まった。金谷が続ける。
「海辺のコートもそうですし、お兄ちゃんと弟とか、地域の子どもたちが一緒にバスケットしている感じが、沖縄の原風景を見事に表していましたよね」
人気漫画『スラムダンク』を映画化した同作品は公開前、そのストーリーをまったく公表していなかった。実際の映画で作者がもっとも思い入れを持って描いていた人物は湘北高校(神奈川)のポイントガード、宮城リョータだった。
小柄で、俊敏で、髪型等のファッションが黒人文化を想起させ、姓が「宮城」。沖縄読者の間では、以前から沖縄にルーツを持つ選手に違いないと囁かれていた。
今回の映画では、その宮城のバックボーンが初めて明かされた。沖縄で生まれ育ち、小さい頃に父と、そしてバスケットを教えてくれた兄を亡くしていた。そして今は、神奈川の公営団地らしきところで母と妹と慎ましく生活している。
貧困とマイナーからの脱出。この逆転の物語が映画の通奏低音となり、作品は単なるスポーツものを超え、重層的かつ多面的なものになっていた。
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photograph by Rika Noguchi