高卒2年目にして岡田監督が大きな期待を寄せる本格派左腕。生まれ育った北の大地で、縁の深い人々を訪ね歩くと、知られざるエピソードとその素顔が浮かび上がって来た。
門別啓人は、いつもこの町を走っていた。
雪の中を、夏の緑の中を、潮風の中を。
北海道の南部、旧門別町にあたる日高町の富川地区は競馬と牧場と、食卓にししゃもが上がる海辺の町だ。スポーツセンターの長い坂を越えて、セイコーマートを抜け、マックスバリュの前を通り、右に見える競馬場、左には日高の海。そして町の日常には、いつもジャージ姿で走る啓人の姿があった。
母の実保は懐かしそうに笑う。
「気がついたら走っていました。いつもはマイペースだけど、野球になるとスイッチが入る。ゲームもやらない、学校を休んだ時だって野球はやりたいって言いだす。それぐらい野球が好きですね。今思えば、いろんな思いをぶつけていたのかな。嫌なことや考えることがあると、バーッと走りに行って、しばらく帰ってこないから」
「こいつは絶対にプロの投手になると確信した」。
今から丁度20年前。啓人はこの町に生まれた。生まれついての左利きは父の竜也が野球の為にあえて矯正はしなかった。その才能はよちよち歩きだった2歳の時に遊びのキャッチボールで発覚したという。門別家と家族ぐるみの付き合いである金村佳嗣はボールを受けた時の衝撃を真剣な表情で語る。
「これは冗談じゃなくてですね。最初から力任せにせず、腕をしならせて投げたんですよ。しかもボールに指が掛かっているから、スピンの利いたボールがブワッと浮いてくる。啓人の糸を引くようなストレートは天性のものですよ。こいつは絶対にプロの投手になると確信しました」
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photograph by Hirofumi Kamaya