目下の戦いぶりに確かな手ごたえを感じつつある。鹿島アントラーズを束ねる岩政大樹監督だ。
「いろいろな人が『お前のやりたいサッカーをやればいい』って言うんですけど(笑)。僕自身、こだわりはない。試合というのは選手のものであって、彼らの個性をいかに出してあげられるか。そこに指導者としてのベースがあるんです」
とにかく、選手たちがピッチ上で輝いてくれればいいと。トレンドに踊らされ、無理やり選手たちを型にはめ込むようなマネはしない。そうした姿勢が結果的に逆襲の引き金となった感がある。
シーズン当初は苦戦の連続。8節を終えて、2勝1分け5敗の15位に沈んでしまう。ヴィッセル神戸とのホーム戦では、1-5という記録的な大敗を喫していた。
転機となったのは9節のアルビレックス新潟戦。指揮官は迷わず手を打った。従来の人選にメスを入れ、新たな組み合わせで再出発を図る。そこから反転攻勢が始まった。
「ピッチへ送ったのは絶えず周りとつながりを持ち、それを心地よく感じながらプレーする選手たちです。いまの選手たちには、それが合いそうだなと」
新たに先発リストに名を連ねたのがFWの垣田裕暉であり、仲間隼斗と名古新太郎の両MFだった。彼らがFWの鈴木優磨やMFの樋口雄太らの主力と密接に絡みながら、躍進を支えることになる。
重視したのは選手同士の関係性。そこで説いたのが連動、連続、連係である。それが成立すれば、相手は必ず困るはずだ――と。指揮官には実体験があった。
「着想で言うと、イビチャ・オシムさんなんです。あの頃のジェフですね。実際に守っていて、すごく嫌だったんですよ。本当にとらえどころがなくて。言わば巻誠一郎とマリオ・ハースのペアが垣田と優磨で、その背後から出てくる羽生直剛さんが仲間みたいな。そういうイメージです」
事実、いまの鹿島の攻撃は極めて流動的だ。それこそ、各々の動きは縦横無尽、神出鬼没。まるで昨季CLで8強に躍進したベンフィカ(ポルトガル)のようだ。相手からすれば、何を仕掛けてくるかが読みにくい。そのぶん再現性に乏しいが、指揮官は意に介さない。
「あらかじめ、相手の出方を読み、こういう立ち位置を取ると決めて戦おうとしたケースもあります。ただ、動きがぎこちなくなって、選手たちが躍動しないんです」
ランニングから生まれる選手同士のつながり
そうした手法が当世風であろうとなかろうと、選手たちが輝かなければ意味がないというわけだ。あくまでも、重視するのは選手同士のつながり。指揮官はその際のポイントがランニングにあると言う。
「そこから連動が生まれると選手たちに話しています。オシムさんではないですが、まず走ろうと。ボールに近い選手が走ったら、スペースが見える。後ろの選手はそこに入って行けばいい。そこから自ずと連動、連続、連係が生まれますからね。ただ、思った以上に機能している感じはありますね」
それも〈つながり〉に軸足を定めた組み合わせの妙。グッド・ケミストリーの見本と言っていい。指揮官は逆境に立たされながらも、その解を探り当てた格好だ。
新潟戦以降、攻守の歯車がかみ合い、戦績は8勝5分け2敗。一気に勝ち点を伸ばし、上位に食い込むことになった。この先、11ポイントの開きがある首位との勝ち点差(23節時点)をどこまで縮められるか。期待を寄せるのは、まだまだ周囲とのつながりが薄い若手たちである。
「つながりの輪の中にどんどん入って来てほしいと思っています。もちろん、融合を進めたくて使っている側面もあります。周囲と合わないというケースもありますが。例えば、お互いに使いたいスペースが一緒で動きが重なってしまうとか。難しいところですけど、チャンスは与えてあげたい。失敗もあるでしょうが、変わるチャンスはありますからね。そこまではやる監督でいたい。もっとも、そういう姿勢はプロ向きじゃないかもしれませんが」
何しろ、束ねるチームは鹿島である。何よりも結果を問われる以上、冒険はしにくい。長い目で見た場合に必要な強化を試みつつも、現実を見定め、したたかにチーム力を引き上げる手腕が求められるのだ。
指揮官はその難しさを実感しながらも、確実に自信を深めている。この先、どう進むべきか「クリアになった」という。岩政鹿島が誇る3つの連(連動、連続、連係)に、よりいっそう磨きがかかりそうだ。
岩政大樹Daiki Iwamasa
1982年1月30日、山口県生まれ。'04年に東京学芸大から鹿島に加入し、J1通算290試合出場35得点。'18年の現役引退後、上武大監督、鹿島コーチを経て'22年途中から監督を務める。