渓流の夏の魚アユ、そのすべてを語って本書は動物行動学の入門書の古典とされている。しかし、たとえば「“なわばり”の社会」の章。“友釣り”はアユの縄張り争いの本能を利用した“敵釣り”だ、と教える。鵜飼、梁やな漁をはじめ、流れの段差で跳ねる飛びアユを手網ですくい取る“汲みアユ”など様々な漁法も紹介される。獲物を動物行動学から理解しておく、アユ釣りの参考書としても読めそうだ。
かつて「新書」は碩学による学問招待の入り口だった。本書はそのお手本だが、学術書の堅苦しさはない。半世紀以上前の出版当時手にした学校嫌いの高校生がわくわくして読んだのだから。行動学の学問上の成果を伝える本流にさまざまな支流を流れ込ませ縦横にアユを語る軟らかな文章がまるで随筆だ。著者の文人嗜好がうかがえるこの支流がいい。
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