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<貴公子の引退に捧ぐ> デイビッド・ベッカム 「時代の寵児が背負った十字架」

2013/06/24
2013年5月、デイビッド・ベッカムが現役引退を発表した。
甘いマスクと優雅なフォームから繰り出される精密なキックが
世界中のファンのハートを射止め、アイコンとして人々の心に刻まれた。
彼とフットボールが歩んだ一つの時代を、当時の記憶とともに振り返る。

「世間の人たちに望むのは、ハードワークをする選手、ピッチに立つたびに、持てるすべてを捧げてきた選手として記憶にとどめてもらうことだけだね。結局のところ、僕は一人のフットボーラーなわけだから」

 突然、現役引退を発表したデイビッド・ベッカムがテレビ番組の中で親友のギャリー・ネビルに漏らしたのは意外なほど慎ましく、そして切実な願いだった。

下着商品にソフトモヒカン……誰もがベッカムと「時代を寝た」。

 '90年代後半以降、ベッカムは今日に至るまで長らくサッカー界に君臨してきた。

 '02年の日韓W杯前後、ブームが最盛期の頃の風景は、今も記憶に新しい。自伝から携帯電話、下着にいたるまで、店頭にはあらゆる種類の関連商品が並び、目抜き通りではソフトモヒカンの少年があふれる。プロモーションで来日した際には、彼の車を追うヘリコプターの群れまで上空に現れた。

 しかもこれは日本だけの出来事ではない。街中にチョコレート製の像が建ち、崇め奉られたりはしないものの、似たような現象は全世界で起きていた。安物の抱き枕を買った女性ファンに限らず、当時は誰もがベッカムと「時代を寝た」のである。

 なぜベッカムはかくも愛されたのか。理由はきわめてわかりやすい。汗と泥にまみれたサッカー選手というイメージを覆す、洒落た格好と甘いマスク、マンチェスター・ユナイテッドやイングランド代表の花形選手としてのステイタス、さらにはハリウッド映画顔負けの感動的なドラマ。'98年のW杯フランス大会で退場した11カ月後には、セットプレーからユナイテッドを三冠に導き、さらに3年後には骨折の危機を乗り越えて、札幌できっちりアルゼンチンにリベンジを果たす。人気が出ない方が不自然というものだ。

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photograph by AFLO

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